みなさんは水槽を見るとき、音に気を配ったたことがありますか? 動物園の動物には特徴的な鳴き声をもったものが多いですよね? では、水族園の魚はどうでしょう? 魚も鳴いたり、声を出したりするのでしょうか? そんな疑問から、ちょっと音に気をつけて水槽を観察してみました。
観察は閉館まぎわの静かな時間帯におこないました。水槽の前に立ち、じっと耳をかたむけ、もし音がしたら、そのときの生物の行動を観察しました。先輩に聴診器(なぜそんなものを持ってるの?)を借りて水槽にあててみたりもしました。しかし、聞こえてくるのは、水を循環させるポンプの音などのノイズばかりです。
そんな中で、なんとか確認できた音が三つありました。一つは、ブダイのなかまが、岩に付着した藻をかじりとる「ガリッ」という音。二つめは、どの魚でもけっこう聞くことができた「おなら」。排泄口から泡が「ポコポコ」と出てきます。そして最後に、わりと大きめの音で、「コツン、コツン」となにかを叩くような音。この音の主がどうも見あたりません。この「コツン」という音は、「グレートバリアリーフ」と「インド洋」の二つの水槽だけで聞こえます。注意していれば開園中でも聞き取れるほどです。
じつはこの音、本誌 348号で紹介したモンハナシャコのなかまが発している音なのです。シャコのなかまは巨大なハンマー状のハサミを使い、貝の硬い殻を砕いて中身を食べる習性があります。観察の結果、このときの音が「なにかを叩いている音」だということが判明しました。「グレートバリアリーフ」水槽では向かって左下の岩陰、「インド洋」水槽では中央の岩にかぶさった貝殻の隙間で、モンハナシャコがときどき顔を出します。
シャコは肉食性で、大きく育つ種類も多いので、他の生物と同居させるには厄介な存在です。もともと展示のために入れたのではなく、自然の石についてきて、水槽内で育ってしまったようです。本来なら即退場してもらうべき存在ですが、今のところ深刻な影響もないので、しばらくそっとしといてあげようかと思います。名前なども張り出していませんが、しばらく「いそうろう」をさせますので、葛西臨海水族園にいらっしゃったら探してみてください。
さて、主題に戻りますが、ほとんどの魚は鳴きません。海や川で泳ぐと水の流れる音だけが聞こえてきます。水槽の楽しみ方の一つに、この「雑音のない静寂」の中に身をおいてみることがあるでしょう。サイレント映画のような水槽をただじっと見つめて、心の耳を澄ませば、水槽内の生物がおりなす旋律が不思議に響いてくるように感じられます。葛西臨海水族園ご来園の際は、「音」に耳をかたむけてみてはいかがでしょうか。
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モンハナシャコを動画でご紹介したニュース(2007年10月26日)
〔葛西臨海水族園飼育展示係 飛田英一朗〕
(2007年11月9日)