今年(2008年)5月2日のニュースでお知らせしたとおり、2008年4月から、井の頭自然文化園ではヤマドリの人工授精をおこないました。その結果、これまでに10羽のひなが孵化しています。今回は、ヤマドリたちのその後のようすをお知らせします。
当園では、産み落とされた卵はすべて孵卵器に入れて人工的に孵化させ、人工育雛(ひなを人間が育てること)をおこなっています。2008年5月3日、最初のひなが孵化しました。そのトップバッターは「リスの小径」で放し飼いになっているコシジロヤマドリの卵でした。
ヤマドリは気性が激しく、繁殖期のオスとメスの同居がむずかしいので人工授精をおこなっていますが、「リスの小径」のヤマドリたちは、広いケージで放し飼いにされているためか、自然に交尾し、有精卵を産みます。しかし巣作りをすることもなく、あちこちで卵を産みっ放しにしてしまうため、好奇心の強いリスたちに卵がかじられてしまうことが多いのです。
そのため、卵が産み落とされているのを見つけたらすぐに拾って「救出」し、「ヤマドリ舎」のヤマドリたちと同様、孵卵器に入れ、人工孵化と人工育雛をおこなっています。
ヤマドリの卵は、一見すると同じキジのなかまであるニワトリの卵に似ていますが、ニワトリの卵よりも一回り小さく、市販のMサイズ卵の半分くらいしかありません。孵化した直後の雛の体重は20グラム。大きさは単一電池くらいです。
ひなの性別は、卵の殻を多摩動物公園の野生生物保全センターへ送り、PCR法という方法で DNAを調べ判定します。現在までにコシジロヤマドリ7羽、キタヤマドリ2羽、シコクヤマドリ1羽の計10羽が孵化し、成長しています。このうちコシジロヤマドリはオス3羽・メス4羽、キタヤマドリは2羽ともオス、シコクヤマドリはメスということがわかっています。
キジのなかまは孵化したときから羽毛に包まれ、すぐに自分で歩きまわることができます。野生では親鳥が餌の場所を教えてやるので、人間が育てるときはピンセットを使って親鳥のように餌をつついて教えます。しかし、ヤマドリのひなは他の鳥よりも臆病です。孵化した直後からピンセットを警戒し、なかなか餌に慣れてくれません。
やっと餌をおぼえ、弱々しくピンセットの餌をつついていた個体も、数日経つと育雛箱のふたを開けただけでピーピーと鳴きながら箱の中を逃げ回るようになってしまいます。刷り込みが強いせいで親鳥の後をついて歩くカモのなかまとは違った、“クールな”ひなたちです。
餌をおぼえたひなは、孵化後2週間で体重が倍以上に増え、少ずつしっかりとした体格になっていきます。今のところ、孵化したヤマドリのひなはみな順調に成長し、いちばん大きな個体は小さなウズラくらいの大きさにまで成長しています。
みなさんの前にお目見えするにはまだ少し時間がかかりますが、夏休み中には若いヤマドリたちがデビューすることでしょう。どうぞお楽しみに!
〔井の頭自然文化園飼育展示係 水谷京子〕
(2008年07月04日)