フェネックはアフリカのサハラ砂漠に住む世界最小のイヌ科の動物です。井の頭自然文化園では、現在5頭(オス4頭、メス1頭)を飼育しており、毎年繁殖に取り組んできましたが、
2019年に「ニイニイ」(オス)と「ミカン」(メス)のあいだに3頭の子が生まれてからは繁殖に成功していません。
井の頭自然文化園では血統の偏りを防ぐために、さまざまなペアで繁殖に取り組んでいます。これまで何度か、異なるオスとメスの組み合わせで、発情の兆候を見ながら同居をしてきましたが、ニイニイとミカン以外は繁殖の経験がないせいか、メスがオスにおびえて攻撃したり、オスもうまくアピールができず体当たりをくり返したり、なかなかうまくいきませんでした。
そこで今年は、繁殖経験のあるニイニイと繁殖経験のないメスの「サラ」で取り組むことにしました。サラは、前回の同居でオスに対して距離を置くようすが確認されたので、メスに対して穏やかなニイニイなら、そんなサラをうまくリードしてくれるのではと期待をしていました。
初めて同居した際、サラは予想どおり緊張していて、初めは興奮気味になったニイニイが近くを通るだけで威嚇し、口をあけて威嚇するなど攻撃的な態度を示しました。心配しながら見守っていましたが、30分ほどするとニイニイが落ち着きを取り戻し、サラの反応にあわせて無理に近づかなくなったのです。相手にあわせた行動ができるニイニイに感心しました。
そしてニイニイとサラをいっしょにして約1か月がすぎた現在では、サラの威嚇は少なくなり、同じお皿でえさを食べたり、ときにはリラックスして隣どうしで休んだりと、少しずつ距離を縮め始めています。まだ交尾をする姿は確認していませんが、今後の2頭に期待しています。

同居を初めて約1か月の「ニイニイ」(左)と「サラ」(右)
メスのフェネックは出産・子育てのときはとても神経質になります。サラができる限り落ち着いた環境で出産できるように、フェネック舎放飼場の一区画をベニヤ板で目隠ししています。また、室内には出産に備え産箱も用意しています。かわいい赤ちゃんが生まれるよう、あたたかく見守っていただけるとうれしいです。

2頭が寄り添って休息しているようす
〔井の頭自然文化園飼育展示係 沼倉〕
(2025年04月03日)