動物園ではいろいろな生きものを見比べることで、それぞれのくらしぶりをより深く知ることができます。生きものどうしを比べてもよいですし、私たち人間と比べてもおもしろいでしょう。
井の頭自然文化園では、ハクビシン、テン、ユーラシアカワウソの3種が隣りあった展示場でくらしています。それぞれの展示場には、彼らが安心してすごすことができるように休息場となる巣穴や巣箱を用意しています。彼らは私たち人間とは違って夜行性のため、日中は休息場で休んでいるようすを見ることが多いです。
そんな彼らを観察していると、それぞれ少しずつ違った休息場の使い方が見えてきます。順番にご紹介しましょう。
ハクビシンの場合
ハクビシンは、野生では古い樹木にできた樹洞や、岩の隙間の穴などを巣穴として利用します。
井の頭自然文化園では2頭のハクビシンを見ることができます。どちらも今年21歳になる高齢のオスで、冬の寒い日はもちろん、夏の暑い日も休息場でよくいっしょに休んでいます。
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ハクビシンの展示場 右奥の木の中と左手前の巣箱が休息場 | 休息場にいるハクビシン |
朝、掃除のために展示場に入り、彼らが眠っているところを失礼して覗き込んでみると……よくうんちやおしっこといっしょに眠っていることがあります(!)。私たち人間からしたら、「ベッドでうんちをして、そのまま寝ているなんて!」と思うかもしれません。
ですがハクビシンからすれば、自分のにおいに包まれた休息場は安心して眠れる最高のベッドなのかもしれません。それだけでなく、夜に出かけているとき、この場所が自分の居場所であることをほかのハクビシンに伝えるのにも役立つでしょう。

巣穴の奥で眠るハクビシンと巣穴の入口に落ちているうんち
なお、最初にご紹介したとおり、井の頭自然文化園のハクビシンは高齢なので、体の自由がきかなくなってきているなか、わざわざ外に出てうんちをするのが面倒に感じることもあるのかもしれません。ただし、野生のハクビシンが民家の屋根裏に入り込み、天井裏でうんちやおしっこをするという被害もあることから、ハクビシンでは一般的に見られる行動といえるのではないでしょうか。
テンの場合
熱が逃げやすい細長い体をしたテンにとって、暖かい休息場は寒い冬を乗り切るためにとても大切です。野生では樹洞や積み重なった倒木の隙間、地面の穴や岩の裂け目などで休むと考えられています。
井の頭自然文化園では、冬になるとテンの巣箱に乾草を入れます。するとそれまでずっと使っていた巣箱には入らなくなり、乾草のある方で毎日休むようになります。

乾草の上で休むホンドテン
そんなテンのようすから、「冬は乾草が入った巣箱を好んで使うのに、自分で植物を持ち込んでベッドを作ることはしないみたいだな……」と思っていました。
ところが今年の冬、展示場に新しい植物を植えてみると、おもしろい行動が見られました。新しい植物を折って、巣箱の中に持ち込んでいたのです。いつも見られるわけではないのですが、テンがこんな行動をすることがあるなんて、新しい発見でした。
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新しく植物を植えたホンドテンの展示場 | 植物が持ち込まれたホンドテンの巣箱 |
ユーラシアカワウソの場合
野生のユーラシアカワウソは、川沿いに岩の隙間や茂みなどの休息場をいくつか持ち、数日おきに移動して使うことが多いようです。
井の頭自然文化園では、カワウソの休息場を2つ用意しています。冬になると、休息場の中には枯れ葉や枝葉、それに毎日担当者が与えている麻布などが持ち込まれ、暖かいベッドができあがります。夏のあいだは、このような行動は見られません。
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ユーラシアカワウソの展示場 右側の岩積みと左側の木製の巣箱が休息場 | 自分で作ったベッドの上で休むカワウソのようす (2024年の冬に撮影) |
2つの休息場のうち、中が見えるようになっている巣箱は間近で観察できるので、ぜひ中のようすを覗いてみてください。これから暖かくなってきたら休息場の中を清潔に保つためにベッドは撤去してしまいますが、2025年3月現在は、カワウソが自分で作ったベッドを見ることができますよ。
野生ではほとんど見られない休む姿
このように、休息場の使い方は種や個体、環境によってさまざまなようです。動物園で動物が休んでいるようすを見ると、「動いてほしいな」と思うこともあるかもしれません。
ですが、今回ご紹介したような警戒心の強い生きものたちが休んでいるところは、野生ではまず見ることはできません。動物園の生きものが休んでいたら、どうして今の時間に眠っているのか、どうしてそこが安心できるのか、野生ではどうしているのか……などなど、ぜひ想像を膨らませてみてください。
〔井の頭自然文化園飼育展示係 大河原〕
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