東京動物園協会野生生物保全基金は、野生生物保全活動に取り組む方々の活動を支援するために助成金交付事業をおこなっています。助成対象となった保全活動について広く知っていただくために、報告講演会を開催します。会場は上野動物園内です。
今回の講演は11題です。申込は
先着順です。どうぞお早めにお申し込みください。
開催日時・場所
日時 2025年12月13日(土)
12時30分〜16時50分(予定)
場所 上野動物園内 管理事務所3階
対象 80名
講演1 天草に生息するゲンジボタルについてのDNA分析を用いた生態及び生息状況調査
講師:辻 愛珠さん(熊本県立天草高等学校2年 科学部副部長)
ホタル班の活動は本年度で9年目となる。日本各地でゲンジボタルに関する多くの研究報告があるが、天草に関するものはこれまで少なかった。本校科学部では、昨年度までに天草下島各地のゲンジボタルの発光周期が3秒型であり、九州に広く分布するものと異なることを明らかにした。今年度は発光周期の違いが、DNAの違いに起因しているのではないかと仮説を立て、DNA分析を実施した。分析は先行研究調査で学んだ手法を参考に、天草各地のゲンジホタル(楠浦、一町田、城河原、小宮地、大宮地、教良木)について実施した。発表では、天草に生息するゲンジボタルが大場(2001)で報告されている九州内の2つのグループ(北九州及び南九州グループ)のどちらに近いのかDNA分析結果からの考察をお話しします。
◎講師プロフィール 熊本県立天草高等学校では、昭和23年に学制改革により天草中学校が昇格して改称されて以来、科学系部活動が活動を続けてきた。平成29年度にはスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の指定を文部科学省から受け、本年度で9年目となる。科学部の活動もSSH事業の一つとして、自然科学に関する様々な研究を行っている。発表者の辻さんはこれまでの研究を引き継ぎ、ホタル班の中心となって研究方針の決定や後輩の指導等、精力的に活動している。科学部副部長も兼務しており、科学部が実施する地域住民へ研究成果を発信する「環境シンポジウム」でも中心的な役割を果たしている。 | |
講演2 紀ノ川下流における止水域に重点を置いた水生生物調査
講師:田村 魁都さん、佐藤 まのあさん(和歌山県立向陽高等学校 2年 理学部)
和歌山県北部に紀ノ川という一級河川がある。この紀ノ川下流域において、魚類の生態系について考察した文献が30年以上発表されておらず、現在の生態系が不明瞭である。また、特に止水域に焦点をあてて環境評価した文献がほとんどない。よって研究目的を「水生生物の生息状況を調査し、紀ノ川下流の止水域の環境を評価すること」として調査をおこなった。2023年5月から2025年10月までの調査で、38種類の水生生物を採捕することができた。そのうち22種類が在来種、12種類が外来種、4種類が国外外来種である。また、止水域によって同じ時期に採捕できた魚類組成が異なる。今回はオイカワ、スゴモロコ属魚類、フナ、ブルーギルに焦点をあてて研究報告をおこなう。
◎講師プロフィール 理学部は1915年4月に創立され、長きにわたり自然科学の探究を続けてきた。構成する部員それぞれが興味関心をもっている分野について探究することを主としており、現在魚類を中心とした生態に強い探究心を持つ部員で構成されている。
・田村 魁都 幼少期より魚類に対し強い関心を抱き、本研究では主力メンバーとして活動を牽引してきた。現在、高校2年生で理学部部長を務めており、クラブ活動の統括にも尽力している。
・佐藤 まのあ 高校1年次に入部以来、生物、特に魚類に対する強い関心から日々研究に取り組んでいる。本研究においても、探究活動及びその広報活動の中心的なメンバーとして貢献してきた。 | |
講演3 ヒメタイコウチの分布調査と分子系統解析、生態ニッチモデリングによる種の保全
講師:宮崎 多聞さん(兵庫県立小野高等学校科学探究科 1年)
兵庫県播磨地方は流紋岩破砕流からなる土地が多く、貧栄養で植生も貧弱である。気候は瀬戸内海式気候で雨が少ないため、ため池が多い。ため池の後背湿地や山麓の低湿地には播磨地方には希少種であるヒメタイコウチが生息している。現在、山麓の低湿地やため池周辺はどんどんと宅地化が進み、また、太陽光発電のパネルが設置されている。そのためヒメタイコウチの生息地は減少しており、個体数も減少していると考えられる。私たちヒメタイコウチ班は3代にわたって生息地の探索を行い、また、その生息地の環境を調べてきた。さらに、脱皮殻等からDNAを抽出、遺伝的変異について研究を進めてきた。その成果について報告する。
◎講師プロフィール ヒメタイコウチ班は3年前に立ち上がった。当初は食性などの研究を行ったが、先行論文を参考にDNA抽出、ミトコンドリア16srRNAに成功して系統樹を作成した、その結果、この領域では播磨地方のヒメタイコウチは中部グループと遺伝的に異なっており、近畿グループに属していることがわかった。さらにこの地域内で、生息場所によって遺伝的変異があることが分かり、2代目、3代目と研究が続いている。3代目の代表である宮崎君は昆虫を中心に、動物だけでなく植物を含め自然に対して興味関心が高い。現在1年生ながら生物部にも所属してスミレ属、クロモジ属の研究にも携わりながら、ヒメタイコウチの最後に実験に取り組んでいる。 | |
講演4 奈良県生駒市におけるツバメの子育て研究
講師:荻巣 樹さん(奈良女子大学附属中等教育学校 6年)
奈良県生駒市の飲食店街、「グリーンヒルいこま」には20個を超えるツバメの巣が存在し、毎年多くのツバメが子育てをしています。これらのツバメの子育てを2018年から毎年調査し、ツバメの子育てにおける雌雄の役割分担や子育て時期における給餌回数の違い等を明らかにしました。調査を続ける中で、子育て時期が進むにつれ給餌回数と給餌日数が比例しないことという新たな疑問が生まれました。この疑問を明らかにするためにヒナの糞のDNA解析をおこない、親鳥のヒナへの給餌内容を時期ごとに明らかにしました。8年間の研究からわかってきたツバメの親鳥の繁殖行動についてお話しします。
◎講師プロフィール 奈良女子大学附属中等教育学校6年生。サイエンス研究会生物班に所属。奈良女子大学附属小学校在学中の2018年に奈良県生駒市にてツバメの子育ての観察を開始し、以後8年間ツバメの繁殖行動を継続調査している。2023年度の冬には、文部科学省が展開する「トビタテ!留学JAPAN 高校生第8期派遣留学生」に選出され、ツバメの越冬地であるフィリピンで約1ヶ月半、ツバメや地元の方々のツバメに対する意識の調査・保護啓発活動を実施。研究成果を国内外の発表会や講演会等で発信し、ツバメの保全活動を続けている。 | |
講演5 都市部運河域における魚類の生息場創出に関する研究-魚類の食性に着目して-
講師:今村 匠さん(東京都立晴海総合高等学校生物部 2年)
都市部の運河は直立護岸に囲まれた半閉鎖的環境で、ヘドロの堆積や貧酸素化により生物にとって厳しい環境となっています。しかし、表層に簡易的な生息場を設けると魚類や無脊椎動物が利用することが分かってきています。本研究では、東京湾奥の朝潮運河と新月島運河に生息場を設置し、集まる魚類の出現状況や食性を調べることで、生息場の効果を明らかにすることを目的としています。将来的には、学校前の運河を豊かな生態系を持つ水域にすることを目指し、調査を行ないました。2022年7月~2025年10月に、月に一度、学校周辺の運河で採集を行い11種の魚類を採集することができました。採集された魚類の内9種はハゼ科でした。今回は採取されたハゼ科の中でも通年で採取されたシモフリシマハゼの食性と運河域の魚類相、採集と同時に行なった環境測定について報告します。
◎講師プロフィール 東京都立晴海総合高等学校生物部2年生です。環境班に所属し、環境とハゼ科の生態の関連性について研究しながら、部長として部活をまとめています。生物部では多様性の回復を目指し、2022年から学校前を流れる運河を調査しています。魚類の生態や食性、環境などの、さまざま分野に興味関心を持つ部員が所属しチームで研究を行っています。 |  シモフリシマハゼ |
講演6 野生動物における身体的ストレスおよび心理的幸福度の評価法に関する研究(II)
講師:大和 修さん(鹿児島大学共同獣医学部教授)
各種野生動物について、主に身体的ストレスマーカーとして炎症マーカーである血清アミロイドA(SAA)および心理的幸福度マーカーとしてオキシトシン(OXT)、ならびに筋肉マーカー(イミダゾール・ジペプチド等)を測定し、展示動物では水族館・動物園でのアニマル・ウェルフェア(AW)や臓器の機能障害、ならびに狩猟動物では狩猟方法による身体的・心理的ダメージを評価し、それらのデータに基づいて野生動物のAWの追求に役立てる目的で研究を継続しています。今回は、水族館の展示動物(イルカ)の調査結果、特に新たな筋肉マーカーについて中心にお話しします。
◎講師プロフィール 1990年に岩手大学を卒業し、北海道大学大学院獣医学研究科に進み、1992年から日本学術振興会 特別研究員、修了後1994年に北海道大学獣医学部助手(内科学)、2000年同講師、2004年同助教授を経て、2006年から鹿児島大学農学部獣医学科教授(臨床病理学)に赴任し、2012年共同獣医学部に名称変更して現在に至っている。なお、2018年〜2024年まで6年間、インドネシア、アイルランガ大学非常勤教授を兼業で務めた。専門は、獣医臨床遺伝学、臨床病理学、野生動物医学で、詳細はresearchmapを参照 (https://researchmap.jp/read0045621)。
|  水族館のイルカ |
講演7 野生メダカはいつ・どこで・どのように繁殖している?動画撮影とDNA解析から迫る
講師:近藤 湧生さん(大阪公立大学 理学研究科 動物社会学研究室 特任助教)
メダカは、大きさ3〜4センチほどの小さな淡水魚です。昔から日本人に愛されてきた観賞魚で、100年以上も前から、体のしくみや遺伝、成長の過程など、さまざまな研究で使われてきました。ところが、野生のメダカが自然の中でどんな暮らしをしているかは、ほとんどわかっていませんでした。特に「いつ繁殖を始めるのか」という基本的なことすら、はっきりしていなかったのです。そこで、繁殖の時期にメダカがどんな行動をしているのかを調べるため、野外・半野外・そして実験室にビデオカメラを設置して、メダカの行動を長時間撮影しました。今回のお話では、過去2年間かけて取り組んだ調査・研究の様子と、少しずつわかってきたメダカの姿についてご紹介します。
◎講師プロフィール 大阪公立大学理学研究科の特任助教。メダカの繁殖生態をメインに研究。水槽実験と野外調査を組み合わせ、メダカの生態解明に挑戦しています。小中高の教員免許を活かし、メダカを使った出前授業やサイエンスカフェにも注力中です。 |  メダカ |
講演8 ヒキガエル属3種の種の境界維持機構の解明
講師:西川 完途さん(京都大学 地球環境学堂 教授)
本州には, ニホンヒキガエル, アズマヒキガエル, ナガレヒキガエルの3種のヒキガエルが生息しており, 近畿地方で側所・同所的に生息し交雑している。しかし、その交雑個体群がどのような組み合わせで生じ,どのような理由で種の境界が維持されているのか未解明な点が多く、本研究ではこの課題の解明に取り組んだ。
◎講師プロフィール 京都大学大学院地球環境学堂および同大学院人間・環境学研究科教授。2001年京都大学大学院人間・環境学研究科博士後期課程中退。2008年学位博士(人間・環境学)取得。その後,京都大学大学院人間・環境学研究科助手,同助教, 同准教授を経て2023年から現職。専門分野は動物系統分類学,両生類学, 多様性保全学。 | |
講演9 国内希少野生動植物種アカモズのファウンダー導入と野生復帰に向けた技術検討
講師:松宮 裕秋さん(長野アカモズ保全研究グループ代表)
アカモズは繁殖地が日本に限られた鳥でありながら、近年における個体数減少が著しく、特に本州個体群は絶滅の危険性が非常に高くなっています。当グループは、アカモズの飼育個体群確立と野生復帰の実現を目的として、2023年から放棄卵の保護と、飼育下へのファウンダー導入、野生復帰にかかる技術検討を進めています。2024年は繁殖失敗した巣から保護した19卵を豊橋総合動植物公園へ移送し、そのうちの11羽が巣立ちに成功したことで、飼育個体群への継続的なファウンダー導入を達成しました。また、生息地における餌量と捕食者密度調査を行い、その結果から放鳥適地を検討しました。2年目となるアカモズの域外保全の取り組みと今後の展望についてお話します。
◎講師プロフィール 1994年生まれ、長野県在住。信州大学を卒業後、会社勤めの傍ら、鳥類をはじめとする生き物の調査・研究・保全活動に携わる。アカモズの保全は10年以上取り組んでおり、2021年には大学時代の研究室のOB・OGや地元の協力者と共に、任意団体「長野アカモズ保全研究グループ」を結成。アカモズと共生する地域社会の実現を目指して、日々活動中。 |  アカモズ |
講演10 絶滅危惧鳥類シロハラサギの飼育下繁殖技術の確立に向けたアオサギの孵化育雛研究
講師:松本 令以さん(兵庫県立コウノトリの郷公園 主任研究員(獣医師))
シロハラサギの世界全体の推定個体数60羽以下のうち約25羽の生息が確認されているブータンでは、シロハラサギ保全センターが飼育下繁殖に取り組んでいるが、雛に生じる脚の成長異常が大きな課題となっている。そこで本研究では、シロハラサギに近縁なアオサギについて、孵化温度、人工育雛時に使用する床材、雛の餌要求量、餌種による成育率の違い等を調査した。この結果、野外巣から採取したアオサギの卵5個の人工孵化と成育後の放鳥に日本で初めて成功した。研究成果は日本野生動物医学会大会で発表した。シロハラサギ保全チームが、この結果をもとにしてシロハラサギ人工育雛ガイドラインの改訂、現地スタッフとのワークショップの開催、専門家による現地支援などの活動を行った。
◎講師プロフィール 北海道大学獣医学部を卒業後、のぼりべつクマ牧場、横浜市立よこはま動物園(ズーラシア)・野毛山動物園を経て現職。日本野生動物医学会認定専門医(鳥類医学分野)。シロハラサギ保全チームとの共同研究としてアオサギの孵化育雛研究を実施するとともに、ブータン王立自然保護協会からの要請を受けてブータンに渡航してシロハラサギ保全活動を支援した。 | |
講演11 希少哺乳動物の域外保全に寄与する精巣機能解析と精巣細胞保存方法に関する研究
講師:山本 ゆきさん(東京農工大学獣医生理学研究室 准教授)
域外保全の一環として飼育下繁殖は重要な役割を持ちますが、何らかの原因で自然繁殖が困難な場合があります。哺乳動物の生殖機能はメスで多く調査が進んでいますが、オスの研究報告は少なく情報が限られています。本プロジェクトでは動物園動物の精巣機能を調査することで、飼育下のオスの生殖能力の実際を明らかにするとともに、効率的・長期的に精子を保存し人工繁殖に活用できる応用技術の確立を目指しています。今回は多摩動物公園との共同研究として実施している調査内容についてご紹介します。
◎講師プロフィール 東京農工大学農学部獣医学科および岐阜大学大学院連合獣医学研究科博士課程 (配属:東京農工大学) においてゾウの生殖ホルモンの研究に携わり、2011年 博士(獣医学)を取得。その後,岡山大学助教、同准教授を経て,2022年から東京農工大学農学部獣医生理学研究室准教授 (現職)。哺乳動物の生殖生理学を専門とし、研究室の学生さんたちと共に内分泌学・細胞生理学の側面から希少動物保全への貢献を目指しています。 | |
応募方法
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【問い合わせ先】東京動物園協会野生生物保全基金事務局
03-3828-8235 ※受付時間は9時30分〜17時
【締 切】2025年11月30日(日)送信分まで有効
※応募は1組1回に限ります。同じ応募者による複数の応募は全て無効となりますのでご注意ください。
※同伴者は1名まで参加可能です。
※応募は先着順となります。定員に達した時点で募集を終了します。
※講演内容の録音・録画、写真撮影は禁止します。
※講演会のようすは職員が記録し、個人が特定できないかたちで報告書などに使用する場合があります。
(2025年11月17日)