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オランウータン「ひな」の繁殖を目指して
 └─2023/10/31
 2023年10月24日、オランウータン「ひな」(メス・13歳)が鹿児島市平川動物公園に移動しました。

 ひなは釧路市動物園で誕生し、飼育係が親代わりとなる人工哺育で育てられました。母親の元に戻すことも試みられましたが、うまく関係性を築くことはできませんでした。

 母親がいっしょにすごす中でさまざまなことを学習するオランウータンにとって、学習の機会が失われることは、特に将来の繁殖や育児における問題行動につながります。そこで、ひなを多摩動物公園で一時的に預かり、他個体とともにすごす環境の中で、オランウータンとしての学習機会を与えようと取組みがスタートしました。


来園初日のひな。まだ、あどけなさが残ります。

 2020年10月14日、ひな(当時10歳)が来園し、他個体との同居に向けてまず始めたことは、ほかのオランウータンの存在をガラスや格子越しの離れたところから視覚的に慣らすことでした。


屋外放飼初日のひな。慎重に新しい環境を確認していました。

 そして、来園から3か月後の2021年1月、ついに他個体と格子越しに対面です。このときは、自分より小さな個体に対しては悪い反応を示さなかったものの、成獣個体に対して威嚇や強い攻撃行動をとったため、初めての対面は短時間で終了しました。釧路では、妹以外の個体との同居ができなかったため、自分より大きな個体に対する恐怖心が強かったのでしょう。

 視覚的に慣らすところから再開し、さらに6か月がすぎた2021年7月、初対面で比較的双方の反応のよかった「ジュリー」(メス、当時56歳)、「チェリア」(メス、当時6歳)を格子越しに引き合わせてみると、すんなりとお互いを受け入れ、2021年8月には、同じ放飼場で3頭ですごすことができるようになりました。同居を開始してからのひなは、ジュリーとチェリアの行動をまねて、地面に降りて撒き餌を採食したり、吊り下げた消防ホースやハンモックを利用するようになったりと、それまでに見られなかった行動をとるようになりました。

 2022年2月には、「キキ」(メス、当時21歳)、「ロキ」(オス、当時3歳)との同居飼育にも成功し、ひなを含めた計5頭で同居飼育をおこなえるようになり、当初の目標であったオランウータンとしての学習機会をひなに十分与えることができたのではないかと考えています。


来園から約3年経過したひな。成長にともなって、顔全体の色が黒っぽく変化しました。

 釧路市動物園から多摩動物公園へ移動させる際、ひなに麻酔をかけて輸送箱に収容しましたが、状況が理解できないまま移動したことに対して、ひなは精神的に大きな負担がかかっているようすでした。そこで、無麻酔での輸送箱収容をもう一つの目標として準備を進め、今回の移動では、ひなを無麻酔で無事に送り出すことができました。


搬出当日のようす。不安な表情を見せていましたが無事に搬出が完了しました。

 今回の取組みを進めるにあたって、人工哺育で育ったひなが、飼育係を精神的な拠り所にてしまうことが容易に想像できたため、ひなの将来を考え、あえて必要以上の関わりを避け、ひなの意識がオランウータンの方に向くよう注意を払いました。

 この3年間、ひながオランウータンとして大きく成長するようすを近くで感じることができました。今後、ひながさらに成長し、繁殖に寄与してくれることを願うばかりです。

〔多摩動物公園 前・南園飼育展示係/現・北園飼育展示係 山本〕

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