ニュース
ぶら下がったまま殻を脱ぎ捨てる?──摩訶不思議なオオゴマダラの蛹化
 └─ 2023/09/21
 多摩動物公園の教育普及係では幼児向けコンテンツ「Kids and Zoo(キッズ アンド ズー)」を作成し、公開しています。先月は新作のぬりえを5種追加しました。そのひとつであるオオゴマダラのぬりえに添付する動画を作成するために、昆虫担当者のバックアップのもと、オオゴマダラを卵から飼育し、観察と記録をおこないました。

 オオゴマダラはほかのチョウより一際大きく、優雅に飛ぶ、昆虫生態園を代表するチョウです。その幼虫は白と黒の縞模様に赤くて丸い紋がある一見ドキっとするような色合い、蛹は黄金色でクリスマスオーナメントのような姿──と成長段階で大きく姿を変えます。

 今回、Kids and Zooの1分30秒の動画には収まりきらなかったオオゴマダラの魅力、なかでも摩訶不思議な蛹化(幼虫から蛹になること)をご紹介します。

 幼虫が大きくなる過程でも脱皮をしますが、幼虫から蛹になるときも脱皮をします。幼虫が頭を下にしてぶら下がること約1日。もぞもぞし始めると、いよいよ脱皮です。


オオゴマダラの蛹化(10倍速、実際のスピード)

 脱皮が始まり幼虫の皮の下で蛹が動くと、模様がずれていくのがわかります。脱いだ殻はなんと透明で、黒いリング模様だけがついているのです。まるでシースルーソックスのようです。最終的に殻を脱ぎ捨てると、赤い斑点がうっすらと残った黄色の蛹が残ります。蛹になったばかりのときは透明感のある黄色で黄金色ではありません。2日ほどかけて、輝きが増し黄金色に変わっていきました。

 さて、この蛹化のようすをみて感動したのもつかの間。ひとつの疑問が生まれました。ぶら下がっている幼虫はどのようにして殻を脱ぎ捨てるのでしょうか。ぶら下がっている部分を離すと落ちてしまうはずです。この疑問は別個体の蛹化に託されました。


 幼虫は蛹化する場所を決めると、糸を「8の字」に吐きながらぶら下がる土台(糸座)をつくります。それができあがると、お尻側にある3つの突起で糸座をつかんでぶら下がり、前述のように脱皮をします。頭側(下)から脱ぎ始めて、お尻側(上)に手繰り寄せた皮が集まります。その後のようすを糸座に注目してみると、次の流れで脱ぎ捨てていることが観察できました。

(1)糸座をつかんでいる3点のうち、1点を離す。
(2)離した部分の皮を脱ぎ、中から蛹の軸がでてくる。
(3)蛹の軸を糸座に付着させる。
(4)残り2点を離し、体を振って殻を落とす。

 蛹の軸は付着直後にも関わらず、ブンブン振られても落ちません。どんな接着面なのかと、羽化後に拡大写真を撮ってみると、マジックテープのようなフックで糸座の糸に絡まっていました。最後のブンブンでフックをしっかりと糸座にひっかけていたのかもしれません。


蛹の軸と糸座の接着

 虫というと、苦手な方も多いでしょう。幼虫となると、なおのことかもしれません。私もどちらかというと苦手でした。でも、1か月という短期間に目まぐるしく成長する彼らの観察を続けると、私たちとはまったく異なる生き方に「なんで!?」の連発、成虫となるころにはすっかりオオゴマダラのとりこでした。

 Kids and Zooは、担当者が動物の魅力にはまりながら作成しています。ぜひワークシートや動画を通して、動物をみる楽しさを共感してもらえればと思います。おうちで、ワークシートと動画を楽しみ、動物園で「あっ!」と思い出しながら動物を見る。そんな使い方をしていただけるとうれしいです。

〔多摩動物公園教育普及係 友岡〕

◎関連ニュース
おうちで楽しむ幼児向けのコンテンツ「Kids and Zoo」のサイトができました!(2023年01月13日)

(2023年09月21日)



ページトップへ