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マルバネルリマダラの幼虫の擬態
 └─ 2023/08/25
 多摩動物公園の昆虫生態園では2022年の夏から、マルバネルリマダラの飼育をしています。

 マルバネルリマダラは日本に本来分布しておらず、国内では四国以南で迷蝶として見られます。迷蝶は台風や季節風などに乗って、もともといなかった地域に飛来したチョウのことです。日本国外では東南アジア、オーストラリア、南太平洋諸島に分布しています。

 見た目は生態園で展示しているチョウのツマムラサキマダラに卵、幼虫、蛹、成虫とすべてのステージでとても似ています。これはミューラー型擬態と呼ばれる擬態の一種で、毒をもっている種がお互いに似ることによって、捕食者に毒をもっていることを覚えてもらう際の犠牲が少なくなるメリットがあるとされています。

 わかりやすい例では、スズメバチなどのハチの縞模様が同じミューラー型の擬態です。ツマムラサキマダラもマルバネルリマダラも似たような見た目をすることで、お互いに犠牲を減らしつつ、捕食者に不味いということを覚えてもらうわけです。

 マルバネルリマダラは採卵ケージなどを使って卵を産ませることが難しく、生態園内での食草に産み付けられた卵や発生した幼虫を回収して飼育をしています。ある日、いつものように食草(幼虫のえさになる植物)のハマイヌビワに発生した幼虫を回収していると、違和感のある幼虫がいました。パッと見たときにはオオゴマダラの幼虫にも見えました。しかし、幼虫がいた食草のハマイヌビワはオオゴマダラの幼虫は食べない食草なので、オオゴマダラの幼虫ではありません。


オオゴマダラの幼虫に擬態している(?)幼虫

 本来、マルバネルリマダラの幼虫はツマムラサキマダラに似ています。両者は縞模様の入り方や突起先端の丸まりで識別することができます。


上:今回発見した幼虫。体側に赤い斑点があり、体から出る突起はストレートな形をしている。
下:スタンダードな幼虫。体側に橙の斑点があり、突起の先端は丸まった形をしている。

 「なんだかおもしろい幼虫だぞ!」と思い意気揚々とバックヤードに連れて帰り、よく観察しました。今まで回収した幼虫は身体の横の斑点が橙色のタイプだったのですが、違和感のある幼虫は斑点の色が赤色だったのです。オオゴマダラの幼虫と比べて見てみましょう。


マルバネルリマダラとオオゴマダラの幼虫

 木の葉の中にいると「オオゴマダラかな?」と思ってしまうくらいには似ています。マルバネルリマダラの生息環境にはもちろんオオゴマダラも生息していますし、オオゴマダラも毒をもっているチョウなので、擬態をするメリットはあります。少なくとも昨年はこのタイプの幼虫は現れていなかったので、何をきっかけとしてオオゴマダラタイプが出現し始めたのかはわかりませんが、一瞬でも「オオゴマダラの幼虫?」と騙されたのには驚いたとともに昆虫擬態の奥深さに感嘆しました。

※2023年8月現在、マルバネルリマダラは卵を産ませることに苦戦しており、生態園内に成虫は飛んでいますが卵数が十分に取れていません。そのため、マルバネルリマダラの飼育・展示は一時終了する可能性があります。

〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 田村〕

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