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フクロギツネ、子育て中
 └─2016/12/09

 多摩動物公園オーストラリア園のコアラ館ではフクロギツネという夜行性の有袋類を飼育展示しています。オーストラリア本土やタスマニア島に生息し、雨林やユーカリ林をすみかとする樹上性の動物です。都市の街路樹や民家の屋根裏にすみつくこともあり、オーストラリア人にとってはとても身近な野生動物の一種ですが、現在日本でフクロギツネが見られる動物園は多摩動物公園だけです。国内では珍しいフクロギツネの子育てのようすをご紹介しましょう。


母親の背中に乗る子

◎出産
 2016年7月初旬からメスがオスに対して「ヒャー!」という大きな声で威嚇するようになりました。フクロギツネはさまざまな鳴き声でコミュニケーションをとる習性がありますが、繁殖期から子育て期にかけて顕著になります。直接確認できませんでしたが、出産の可能性があると考え、オスをバックヤードに移動しました。

◎袋での成長
 7月下旬、メスの育児嚢(以下、袋)はふくらみがまだわずかに観察できる程度でしたが、9月になると明らかに膨らみが見られるようになりました。9月下旬のある日、まだ無毛でピンク色の子が頭と前肢を袋の中に残して袋からぶら下がっているところを目撃しました。この状態はその後も、全身が袋から出るまで何回も観察されました。


【動画:子が母親の袋からぶら下がっている。2016年10月26日撮影】

◎袋から出る
 10月に入ると子にうっすらと毛が生え始め、10月の終わりには濃茶色の毛で覆われた体がようやく完全に袋から出ました。出たばかりの頃は母親の尾につかまるだけで精一杯でしたが、それから1か月以上がたった今は背中にしっかりとつかまっています。


【動画:母親の背中に乗る子。2016年12月1日撮影】

 一般的に有袋類の子どもは、全身が袋から出る前に四肢や頭など体の一部をのぞかせることがありますが、今回の子は頭以外のほぼ全身を出してしまうことに驚きました。子の大きさのわりに袋が小さく、母親が枝を渡っているときは袋の入口が下を向き、重力に負けて体の大部分が出てしまうのではないかと考えられます。

 野生のフクロギツネも出産後5~6か月で袋から完全に出てきた子を背中に乗せて移動しますが、子が背中から落ちて天敵に襲われたり、母親とはぐれて保護されたりすることが多いようです。今回生まれた子も、袋から出たばかりの頃は母親の尾や背中から滑り落ちる場面が頻繁に見られました。あと1か月ほどは母親の背中に乗り、樹上生活に必要な能力を身に着けていくと思います。

・関連ニュース
 「フクロギツネの繁殖」(2013年11月29日)

〔多摩動物公園南園飼育展示係 太田香織〕

(2016年12月09日)


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