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今年のトビハゼ繁殖──夜間に泥干潟水槽で子どもを回収
 └─2015/10/23

 葛西臨海水族園「東京の海」エリアの泥干潟水槽でトビハゼが繁殖しました。トビハゼは、東京湾から沖縄本島にかけての泥干潟にすむ水陸両生のハゼ科の魚です。干潮時の干潟でえさを捕ったり、繁殖のために活動したりします。

 夏の繁殖期にオスは泥の中に深さ20~30センチの巣穴を掘りますが、その末端はJ字型に反り上がって「産卵室」となります。産卵室の卵は1週間程で孵化し、子どもは巣穴から出て海で漂う生活をします。産卵後のメスは巣穴を離れますが、オスは巣穴に残って卵を守ります。興味深いことに、オスは巣穴の外で口に空気を含み、産卵室に何度も運びます。その結果、産卵室の卵は空気にさらされ、発生が進むと考えられています。

・関連記事:トビハゼの巣穴掘り「空気をパクッ」(2011年11月4日)


水槽内で孵化したトビハゼの仔魚(全長約3ミリ)

 2015年8月6日、消灯後の18時40分頃、薄暗い泥干潟水槽でのことです。満潮の水面の一部で直径1~2センチの気泡がポコポコと約1分間出ているのを確認しました。「さては?」と直感的に思い、ただちに懐中電灯で水槽のガラス面下部(水中部分)を照らしました。約10秒後には暗い背景に白っぽい半透明の小さな魚の子ども(全長約3ミリ)が数尾確認され、数は時間とともに増え、約1分経つと数十尾を超える数になりました。この子どもはたしかに光に集まる習性でした。

 これは孵化直後と思われるトビハゼの子です。水面の気泡は、オスが巣穴内で卵の孵化を誘うためとった行動によるものでしょう。卵が孵化直前になると、オスは産卵室に溜まった空気を口に含み外へ出します。これを何度も繰り返し、産卵室の水位を上昇させ、卵を水にひたし、孵化を誘発します。このとき生じた気泡だったのだと思います。

◎トビハゼの子が光に集まるようす(約30秒)
水槽横面に向かって撮影。前半は光を右からあて、後半は上からあてている

 これまでは開園前に水槽内に金魚網を入れ、子どもを手繰りよせて水ごとカップで回収していましたが、今回は光に集まる習性を活かし、18時半以降に作業して、一度に数百尾の子どもを水ごとカップですくうことができました。孵化直後の子どもを傷つけずに効率よく回収できるので、繁殖成績の向上にも繋がるのではと考えています。

〔葛西臨海水族園飼育展示係 田辺信吾〕

(2015年10月23日)


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