鳥班レポートの「トリ」を飾るのは、ライチョウです。
上野動物園では2008年からライチョウの亜種「スバールバルライチョウ」の飼育を開始し、2015年以降は環境省保護増殖事業の生息域外保全の取り組みとして、日本に生息するライチョウ飼育を始めました。
2015年は上野と富山市ファミリーパーク、2016年はこれら2施設と長野県市立大町山岳博物館の3施設が、乗鞍岳から野生の卵を運び、人工孵化させたひなを育てて生息域外保全の基礎となる「創始個体」を確保するよう努めてきました。
その2年間で成った個体は、3施設合わせてオス11羽、メス3羽、計14羽です。2017年2月の環境省保護増殖事業検討会では、生息域外保全計画について協議しました。3施設で飼っている個体を組み合わせてでペアを作り、得られた有精卵を交換する計画を立て、また、3施設だけで進めるのではなく、危険を分散するために新たな飼育施設を検討するとともに、孵化した個体ではなく有精卵のままで移動することなどを検討しました。

大町山岳博物館から上野動物園に運んだ卵から孵化したひな
左:孵化当日(2017年7月14日)、右:90日齢(2017年10月13日)
「なぜ成鳥ではなく有精卵を移動させるのか?」と疑問を抱く方もいらっしゃるかもしれません。ライチョウは、同じ施設内で場所を移動させるだけでえさを食べなくなるなど、環境変化にとても敏感な鳥です。そこで卵を運んで移動先で孵化させれば、成育後の個体を移動する必要はなくなります。

2017年6月15日、上野動物園ライチョウ舎で大町山岳博物館職員に有精卵の引渡し
有精卵の輸送の経験は、すでにスバールバルライチョウを使って、上野と富山、上野といしかわ動物園で相互に輸送したり、発生後期の卵を乗鞍岳から富山と大町のスタッフが運び、孵化させて無事育てたりした実績があります。そこで、それぞれの施設に1羽しかいないメスの血統は、有精卵を移動することによって遺伝的多様性を確保することになりました。
今年は2017年5月20日に富山市ファミリーパークのメスから産卵が始まり、3施設で計60個の産卵がありました。そのうち有精卵は48卵で、輸送に用いた卵は22個でした。22個の卵のうち孵化したのは14卵、成育したのは7羽です。各園での孵化も含めると飼育園館全体で22羽が孵化し、12羽が成育中です。
上野動物園でも飼育個体が産卵した卵から孵化したひなが2羽、富山と大町から運び入れた卵から孵化したひなが各1羽、計4羽が成育中です。
今回の繁殖では野生よりも多くの産卵が見られるとともに、育雛初期で個体が死亡するなど多くの課題がありました。今年度の反省点を次年度に活かしていきます。
* * *
カワセミから始まった上野動物園の鳥班レポート、5週にわたりお付き合いいただきありがとうございました。春から夏の鳥たちの大繁殖シーズンは終わりましたが、秋から冬に繁殖する鳥もいます。次回のレポートは季節はずれの繁殖など、引き続きよい報告をお届けできるように日々の飼育管理を進めていきます。
◎
鳥班レポート2017──今年繁殖した鳥たち[1]カワセミ(2017年9月22日)
◎
鳥班レポート2017──今年繁殖した鳥たち[2]ミヤコドリ(2017年9月29日)
◎
鳥班レポート2017──今年繁殖した鳥たち[3]カンムリコサイチョウ(2017年10月6日)
◎
鳥班レポート2017──今年繁殖した鳥たち[4]クロツグミ(2017年10月13日)
〔上野動物園東園飼育展示係 高橋幸裕〕
(2017年10月20日)