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鳥班レポート2017──今年繁殖した鳥たち[2]ミヤコドリ
 └─2017/09/29

 上野動物園の東園「バードハウス」1階で展示しているミヤコドリは、夏は北欧や中央アジア、カムチャッカ半島などで繁殖し、冬になると越冬のため西欧やアフリカ西部、アジアなどに渡り、日本にも干潟や沿岸部に飛来します。

 野生繁殖地の一部である北極圏では「白夜」、つまり真夜中でも暗くならない現象があることに着目し、上野動物園ではミヤコドリの繁殖をめざして2016年から展示場の照明時間を変更しました。最初の年にメスが初めて産卵したものの、卵はすべて割られてしまいました。しかし今年(2017年)、上野動物園初の繁殖に成功しました。その経緯をお伝えします。

 上野動物園ではミヤコドリの成鳥をオス2羽(「黒」と「青」)、メス1羽を飼育しています。2017年5月初旬から黒とメスの2羽で行動することが増え、青が追われ始めたため、青を裏ケージに移しました。しかし、照明時間の変化とともに黒の攻撃性が増し、メスも追い回すようになってしまいました。

 6月10日にメスが黒に追われて池の中で伏せた状態だっため、黒を裏ケージに移動し、青を展示場に戻しました。黒のこの行動の変化は、照明時間の変化が急激だったためかもしれません。メスは黒と分けた直後に1卵目を産卵しましたが、卵は池に水没していました。

 その後、メスは青と行動するようになり、6月18日に2卵目を産卵しました。前年2016年の経験をふまえ、卵を割られる前にすぐに擬卵(偽物の卵)と交換し、孵卵器に入れました。

 野生では卵をくちばしでくわえて運ぶ行動が確認されています。上野のペアも擬卵を移す行動が見られました。次の3卵目は違う場所に産みました。産んだ卵に砂がかけられていたため、擬卵に砂をかけてみたところ、4卵目以降は擬卵の隣に産むようになりました。最終的に5卵を産み、1卵目以外はすべて有精卵でした。

 孵卵器に入れた卵は順調に発生しましたが、これまで国内の繁殖例も少なく、適切な温度や湿度がわかりません。そこで、卵の状態を見ながら調整しました。しかし、4卵とも自力では孵化できず、人による補助が必要となりました。その結果、1卵は孵化前に死亡しましたが、残りの3卵は無事孵化し、飼育係が育てることとなりました。


写真1 最初に孵化したひな。孵化2日後(2017年7月18日)

 1羽目は7月16日に孵化。翌日からバードハウスで育てることにしました(写真1は孵化の2日後)。えさはオキアミやアサリ、しらす干しを刻んだものにカルシウム剤などを添加したものです。人に慣れないようにするため、成鳥のくちばしを模した赤い箸でえさをつまんで与えたところ、すぐに食べるようになりました。その後、7月19日と20日に孵化した2羽も、先に孵化したひなの真似をして、すぐに食べ始めました(写真2)。こうして3羽は大きなトラブルもなく順調に育ちました。


写真2 親鳥のくちばしを模した赤い箸で給餌(2017年7月24日)

 8月6日になると自分でえさを食べる行動が見られたため、非公開の広いケージに移したところ、羽ばたく練習を始めました(写真3)。そして9月5日、東園のバードケージでデビューです。裏に隔離したオス「黒」もこのときひな3羽と合流させました。


広いケージに移したひな(18日齢、2017年8月7日)

 ひなはすでに成鳥と同じ大きさとなり、羽色もほぼ変わりませんが、よく観察すると目が黒く、くちばしも成長のような濃い赤ではありません。いつ成鳥と同じ姿になるのか楽しみです。

 次回は親が立派に育てた繁殖事例。その鳥は……ミヤコドリとよく似た配色の「あの鳥」です!

鳥班レポート2017──今年繁殖した鳥たち[1]カワセミ(2017年9月22日)

〔上野動物園東園飼育展示係 宇野なつみ〕

(2017年09月29日)


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