多摩動物公園の「なかよし広場」の前にあるヤギ舎では、現在メスのヤギを3頭飼育しています。母親の「アン」(13歳)と「ツブ」「コシ」(双子、10歳)は親子でありながら、それぞれに異なる個性をもち、その違いは日々の飼育にも大きく影響しています。
アンは食欲旺盛で、人に対して物おじしない性格です。飼育係にあまり警戒心を抱かず、えさをもらおうと積極的に近づいてきます。対照的に、ツブは強気な性格で、ときにはほかの2頭をツノで押しのけてえさを独占しようとする攻撃的な一面も見せます。
一方、コシは穏やかで警戒心が強く、飼育係とも距離を保つ傾向があります。えさの時間には、アンやツブが先に食べているようすを少し離れた場所から観察し、最後に食べに来る行動がよく見られます。

カメラが近づいても離れないアン(左)
遠くからようすを伺うコシ(中央)とツブ(右)
このように、親子であっても性格や行動には大きな違いがあります。複数の動物を同じ空間で飼育することには、動物どうしが関わりをもつことで安心感や刺激を得られるメリットがありますが、一方でえさの偏りや争いといった問題が生じることもあります。とくにこの3頭の場合、食欲旺盛なアンが多くのえさを食べてしまい、偏りが見られました。
そのため、えさをばらまいてみたり、数か所に分けて設置したりすることで、えさを探す時間を増やし、ほかの個体に横取りされそうなら移動して別のえさを得られるようにしていました。しかし、アンの採食スピードが速く、ほかの2頭より多くの場所を巡って食べ尽くしてしまう状況でした。直ちにそれが健康に支障を与えるものではありませんが、より均等に食べられる給餌方法が必要だと考えました。
そこで私たちは、さらなる「環境エンリッチメント」の一環として、時間をかけてえさを食べられるようにくふうしたフィーダー(給餌器)を作成しました。環境エンリッチメントとは、動物が本来もつ行動を引き出し、生活環境をより豊かにするための取り組みを指します。
今回作成したフィーダーは、ポリタンクに小さな穴を開けて吊るし、中にえさを入れることで、揺らすたびに少しずつえさが出てくる仕組みです。最初は戸惑っていた3頭も、数日後にはそれぞれが使い方を学び、ツノでフィーダーを揺らすとえさが出てくることを理解しました。
フィーダーを使ってえさを食べるようす
フィーダーは現在2つ設置しており、それぞれがお互いの距離感を保って移動しながらフィーダーを使用しています。アンが時間をかけてえさを取り出しているあいだに、もうひとつのフィーダーを使用できることに加えて、アンはフィーダーの扱いがほかの2頭よりも苦手で、えさをすべて取り出せずに諦めて離れるので、ツブとコシが以前より多くのえさを得られるようになりました。
結果として、3頭のあいだで食べる量のバランスがとれるようになりました。この取り組みにより、個体ごとの性格や行動に配慮した給餌管理が可能となり、動物たちの健康と福祉をよりよい形で保つことができました。
ヤギたちの豊かな個性は、飼育の現場に多くの気づきと学びを与えてくれています。今後もそれぞれの動物の特徴をよく観察しながら、個性に合わせた飼育方法を模索し、よりよい環境を提供していきます。
〔多摩動物公園南園飼育展示第2係 岩崎〕
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