12月下旬のある日、井の頭自然文化園の「
いきもの広場」で、木の枝先に突き刺さっているイナゴを見つけました(写真1)。もしやこれはうわさに聞く「モズのはやにえ」ではないか!? 肉食の小鳥であるモズは秋冬の季節、オスもメスもなわばり内の木の枝などに獲物を突き刺して「はやにえ」をつくることが知られています。もしこのイナゴが「はやにえ」ならば、そこをなわばりにしている主(ぬし)のモズがいるはずです。そこで私は周辺を探してみることにしました。

写真1:枝に刺さったコバネイナゴ
捜索を開始して2日目の朝、現場に行くと予想外の光景が目に飛び込んできました。その枝にあったイナゴがなくなっており、そのかわりにカナヘビが刺さっていたのです(写真2)。この枝の硬さや長さ、角度などが獲物を刺すのにちょうどよかったのでしょうか。よく見るとモズが獲物を刺そうと試みたのか、その付近の枝も折れていました。なお消えたイナゴは周りの地面などを探しても見つからなかったので、モズが食べたのかもしれません。

写真2:枝に刺さったニホンカナヘビ
そしてその翌日のことです。ついにモズの姿をとらえることができました!モズは、前の日に刺したカナヘビのすぐそばにとまっていました(写真3)。そのまましばらく観察していると、モズが地面に向かって急降下。次の瞬間にはくちばしにミミズをくわえて、丸のみにしていました。そしてまたすぐに別のミミズをもう1匹捕らえると、今度はミミズをくわえたまま飛んで木の枝にとまり、くちばしをこすりつけるような動きをしました。そっと近づいてよく見ると、モズの近くの枝にひっかかっているミミズを確認できました(写真4、5、6)。私はまさに「はやにえ」をつくる現場を目撃したのです。そしてこのモズが、ここをなわばりにする主のモズなのでしょう。
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写真3:はやにえのそばにとまったモズ | 写真4:ミミズをくわえているモズ |
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写真5:ミミズをはやにえにしたモズ | 写真6:枝にひっかかったミミズ |
モズが「はやにえ」をつくる理由は、えさの少ない冬に備えて保存食にするためという説が有力です。さらに、「はやにえ」をたくさん食べるオスは栄養状態がよくなり、メスに好まれる早い速度でさえずることができるとの研究も近年発表されています。
2月初め現在、まだカナヘビは枝に刺さったままですが、このあと主モズが食べることはあるのでしょうか。毎月第2、4日曜日に開催しているイベント「
いきもの広場で遊ぼう」では、「いきもの広場」に入って身近な生きものを探すことができます。ぜひいろいろな生きものの冬越しのようすを観察しながら、「はやにえ」の行く末も確認してみてください。
参考文献:Nishida Y. and Takagi M. (2019). Male bull-headed shrikes use food caches to improve their condition-dependent song performance and pairing success. Animal Behaviour, 152, pp.29-37.
https://doi.org/10.1016/j.anbehav.2019.04.002
[井の頭自然文化園教育普及係 岸野]
(2025年02月06日)