今年(2005年)2月、南米のチリ共和国で生物の調査と採集をおこないました。みなさんは「チリ」と聞いて何を思い浮かべますか? 南北に細長い国、アンデス山脈、アンチョビの好漁場──などでしょうか。今回は、私たちがおこなった採集のもようと、チリの食文化について紹介します。
さて、チリの海の中はどのようなようすなのでしょう。採集地に着き、海に潜ってみると、そこは見たこともない驚きの世界。岩場には、カラスガイのなかまであるチョルーガやチョリート、そしてカサガイのなかまのダイレイテッドスリッパーが、岩はだが見えないほどびっしりと付着しています。
そして、そのあいだから、大型のフジツボであるピコロコが、たがいに積みかさなり、30~50センチくらいの煙突状になってニョキニョキと立っています(写真上)。また、岩のまわりには長さ10メートルを超える海藻、ジャイアントケルプが繁茂し、ウニのなかまのエリソがゴロゴロしています。
これら生物の一部は、水中のプランクトンや有機物をえさにしています。沖を流れる冷たいフンボルト海流と、海底からの栄養豊富な湧昇流が、生産性の高い海をつくり、豊かな生物相を支えているのです。
こうした豊かな海をもつチリの食文化はどんなものなのでしょう? 私たちが行く先々の港には、漁船がつどい(写真中)、市場には魚や貝はもちろん、フジツボ、ウニ、ホヤ、海藻などがならびます(写真下)。当園の水槽でもおなじみのピコロコは、殻ごと焼いたり、スープなどにして食べると、エビのような、はたまたカニのような、なんとも形容しがたいおいしさです。
蒸し焼きにした貝類、ジャガイモ、肉類などが豪快に盛られたチリ南部の名物料理は、とても一人では食べ切れないほど。そして、なかでも驚くことは、ホヤや海藻をスープなどにして食べるということです。私たち日本人にとってはふつうのことですが、西洋ではほとんど見られない食文化なのです。
このように、チリの人々は海の恵みをじょうずに利用し、じつに豊かな食文化をもっています。じつは、チリの貝類やウニなどは日本へも輸出されているので、皆さんも口にしているかもしれません。
現在葛西臨海水族園では、レストラン・シーウィンドウの前でチリの写真展を行なっています。ぜひご来園になり、チリ水槽とともにお楽しみください。ちなみに、残念ながらピコロコを食べることはできません……。
〔葛西臨海水族園調査係 雨宮健太郎〕
・写真上:煙突のように立つピコロコ
・写真中:色とりどりの漁船が集う港
・写真下:貝やピコロコがならぶ市場
(2005年4月8日)
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