マガキガイは、房総半島以南にすむ巻貝のなかまです。冬になるとカキフライや鍋などで利用されるあのマガキと名前は似ていますが、こちらは二枚貝で別の種類です。マガキガイという名前は、殻の模様が「まがき」(竹や柴などをあらく編んで作った垣根)の文様に似たところからついたようですが、残念ながら水槽のマガキガイは、殻に海藻やコケがついてしまっており、模様を見ることはできません。
マガキガイは、殻の長さが6センチ程度で、楕円に近い緩やかな逆三角形をしています。巻貝のなかまの多くは、体を殻の中にしまう際に入口をふさぐためのふたがついています。マガキガイのふたはカマ状で片方の縁がギザギザしており、捕まえられるとふたのついた足を振りまわして抵抗するので「ちゃんばら貝」とも呼ばれます。
葛西臨海水族園では、砂の上を歩きながら表面についた藻類などを食べるため、水槽の掃除屋さんとしても活躍しています。殻からのぞかせた頭部はユーモラスな顔のようで、一度見たら忘れられないでしょう。象の鼻のように長くのばした口を出し、左右に動かしてあちこち触れています。口の中には、歯舌(しぜつ)という細かい歯がリボン状に並んだ器官があり、これを使って砂や岩の上の付着物をこすり取るように食べます。
ニョキッと飛び出た2本の柄の先には眼がついています。貝に眼があるなんて考えたことのない方は、マガキガイの眼を見たら驚くかも知れません。巻貝のなかまには眼があり、私たちの食卓にのぼるサザエにもついています。サザエの眼は、触角のつけ根の外側に小さな点があるのみですが、マガキガイの眼は、外見上は魚類の眼に似ていて大きくとても目立ちます。ただ、私たちのような高度な機能はなく、明暗を感じる程度のようです。
歩くときは、カマ状のふたを海底にひっかけ殻をもちあげるようにして一歩ずつ前に進みます。ある日、彼らが驚いて殻に隠れたときに、コロッと転がって逆さまになってしまったことがありました。どうするのかと見ていたところ、しばらくして殻のすき間からそっと足を出し、地面を思い切り蹴って、えいっ!と一瞬で起き上がったのです。ふだんはゆっくり動くマガキガイの機敏な動きに感心しました。
マガキガイは、世界の海エリアの「モーリシャス水槽」や東京の海エリアの「伊豆七島の海3」で見ることができます。水槽の底を探してみてください。
写真上:マガキガイの眼
写真中:カマ状のふた(円内)
写真下:サザエの小さな眼(矢印)
〔葛西臨海水族園飼育展示係 高濱由美子〕
(2013年11月04日)
|