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定置網漁で魚をとる──葛西 10/15
 葛西臨海水族園で展示している生き物の多くは、職員が自分たちで採集しています。釣りをしたり、水中に潜って手網ですくったり、さまざまな採集方法がありますが、今回は漁師さんの定置網漁に同行した際の採集のようすをご紹介しましょう。

 朝4時、まだ暗い港で定置網漁の漁師さんたちが来るのを待ちます。漁師さんの好意で船に乗せてもらう、いわば、いそうろうの身なので遅刻は厳禁。早めに港に行き、スタンバイします。定置網漁は通常、日の出前後にかけて操業するので、とにかく朝が早い日の出の早い夏期は朝3時半出港なので、これでも遅いのです。
 定置網漁とは、海の中に大規模な網を設置して、網の中に入る魚を獲る漁です。今回のねらいは、トビウオのなかま。事前に問いあわせてトビウオが入っていることを確認していますが、その日に目あての魚が入るかどうかは、乗ってみないとわかりません。
 先週も船に乗せてもらいましたが、トビウオは入りませんでした。自然が相手ですから、人間の思ったとおりにはいきません。でも、かわりにとても珍しい魚が入って驚くこともあります。

 さて、船に水槽などの機材を積んで乗り、定置網が設置してある場所へと向かいます。網の場所は、旋回しているたくさんのカモメのすがたで遠目でもわかります。
 薄暗い海上、カモメのやかましい鳴き声の中で、漁師さんたちによって網が徐々にしぼられていき、中に入っている魚がザワザワ、バシャバジャと波をたてます。船上がいっきに活気づき、私たちも緊張する瞬間です。ねらいの魚は入っているのか、おもしろい魚は入っているのか、ワクワクドキドキもします。

 長い柄のついた手網を持ち、網の中でグルグルと泳ぎ回る魚の背に目をこらします。ねらいの魚をすばやく見つけだし、なるべく早くすくうこと。定置網漁での採集はスピードがもっとも大事です。モタモタしていると、網に入っている他の魚にもまれてねらいの魚の体表がすれてしまうし、網がどんどんとしぼられていきます。いそうろうの身なので、動きまわる漁師さんたちのじゃまにならないように気もつかいます。わずか10分間ほどの勝負です。
 こうして、ねらいの魚をすくい、船上に置かせてもらった水槽におさめます。この日はトビウオ、カワハギ、ムツ、アカヤガラなどを採集し、水族園まで運びました。
 定置網漁は、トビウオなど、釣りでの採集が難しい種には有効な採集方法ですし、多種多様な魚が数入るので、水族園では春と秋に数回ずつおこなっています。何より、実際の漁の緊張感や活気を間近で感じることができる、とても興味深い採集なのです。
〔東京動物園協会調査係 天野未知〕

(2004年10月15日)



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