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ミヤコタナゴの産卵が最盛期!
 └─井の頭 2010/06/04

 ミヤコタナゴは、かつては東京都をはじめとした関東の平野部に広く分布していましたが、現在では千葉県と埼玉県、栃木県のごく限られた場所に生息が確認されているだけで、国の天然記念物にも指定されている、絶滅が危ぶまれる稀少な魚です。井の頭池にいたかどうかは、はっきりとはわかっていませんが、東京ではすでに絶滅してしまったといわれています。

 井の頭自然文化園の水生物館では、このミヤコタナゴを飼育展示し、毎年繁殖させています。
 水槽内で3月の終わりごろから徐々にはじまった産卵は、夏までおこなわれますが、今が最盛期。産卵しているようすを観察することができます。

 タナゴのなかまは、生きた貝の殻の中に卵を産みつける変わった習性があります。水槽内で泳いでいるミヤコタナゴを見てみると、オレンジ色に縁取られたヒレと白っぽい鼻先をもつオスと、地味な色合いをしたメスが貝の周りで泳いでいるのが観察できます。さらにメスのお尻には、産卵管が伸びてきます。一見、金魚のフンのようにも見えますが、貝の中に卵を産むための重要な器官です。

 産卵行動は、貝を独占している強いオスが盛んにメスを産卵に誘い、それにつられて、メスが貝の中に卵を産みます。メスが貝に卵を産むと、すかさずオスが精子をかけます。メスが産卵した瞬間に、貝を独占している強いオス1尾だけでなく、周りにいたたくさんのオスもやってきて、一斉に精子をかけます。産卵自体は一瞬ですが、その後たくさんのオスが集まってくるので、産卵したことがわかります。

 産卵が終わった貝は裏側の予備水槽に収容し、おおよそ1か月ほどで貝の中から稚魚が泳ぎ出てきます。
 実は産卵に使っている淡水産の二枚貝も、数が減っていて絶滅が危ぶまれる希少種です。そこで、産卵に使用した二枚貝の仲間は、ミヤコタナゴの繁殖期が終わるとまた元の生息地に戻しています。

 現在、予備水槽では、毎日少しずつ貝の中からミヤコタナゴの稚魚が泳ぎ出ており、数百尾を飼育中です。
 今年生まれのミヤコタナゴは来年には性成熟し、展示水槽で産卵に加わることになります。

〔井の頭自然文化園水生物館飼育展示係 中村浩司〕

(2010年06月04日)



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