植物に多量に含まれる炭水化物「セルロース」は、哺乳類がもつ消化酵素では分解することができません。もともとは小型の肉食動物であったと考えられている哺乳類は、植物がもつ栄養素の多くを自らの力では利用することができないのです。
しかし、現在、多くの草食性の哺乳類がくらしています。長い進化の過程で様々な方法で植物を利用する能力を高めてきたからです。たとえば肉食獣のなかまであるジャイアントパンダは、ササやタケを大量に食べることで消化効率の悪さを補っていますが、あまり洗練された方法とはいえません。
もっとも植物を効率よく利用する能力を身につけた草食動物の頂点に立つのが、ウシ科やシカ科のような、セルロースを分解する微生物を胃にもつ動物たちです。この仕組みにより、格段に消化効率が向上しました。
特設展示「ワンダーハット」の準備中、「これってワンダーだね!」と話しながらいろいろな動物のおもしろさを見つけていきました。ウシ科(カモシカ)やシカ科(ヤクシカ)の植物消化システムは実にワンダーです。
このちょっと難しい話題を子供たちに体感させる遊びは何があるのだろうかと考え、肉食専門のヤマネコと比較する「草食・肉食コーナー」を作りました。
このコーナーの導入は「のぞいてみようボックス」です。カモシカやヤクシカは、微生物の活動を助けるために、草や葉をむしりとって食べるときだけでなく、食べたものを胃から再び口に戻し、何度も臼歯で細かくすりつぶします。そして、唾液とよく混ぜます。この行動を反芻やかみもどしと呼びます。のぞいてみようボックスではヤクシカの反芻のビデオ映像をくり返し流しています。
あごの動きを自分で確認できるように、カモシカとヤマネコの頭骨を展示し、下顎が動く「肉食・草食パペット」を作りました。ちょうつがいを工夫して、下顎が左右に動くカモシカパペットと上下に動くヤマネコパペットを比べられるようにしています。
隣の机には、反芻行動や4つの袋に分かれた胃、長い腸を実感できる「消化管コロコロ」が置いてあります。
消化管の形に溝が掘ってある板を両手で持って、口からゴールのおしりまで玉を転がして遊びます。単純な消化管をしたヤマネコのコロコロゲームも一緒に置きました。
実際の使われ方を観察すると、幼い子供たちには板が予想以上に重いようで、板を机においたまま、指で玉を押してゴールを目指す方法が主流になっています。いずれにせよ、ヤマネコよりカモシカの方がゴールまでに時間がかかることは想定通りでした。
最後に本物の長さとそれっぽい質感の腸を壁にうねらせようと考えていましたが、スペースも時間も足りず5分の1サイズの6種類の動物の腸になりました。腸の質感は羊毛で再現しました。腸とパペットはデザイン担当スタッフの力作です。工芸品としても一見の価値ありです。
写真上:カモシカコロコロ
写真下:草食・肉食パペットと動物の腸
・特設展示「WONDER HUT──どうぶつのふしぎがいっぱい」関連ニュースは
こちら
〔井の頭自然文化園動物解説員 馬島洋〕
(2010年05月14日)