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“われから”ワレカラを見てみよう!
 └─葛西  2008/08/29

 「春は、あけぼの」で有名な清少納言の随筆「枕草子」の中に、「虫は」で始まる文章があります。そこに登場するスズムシやチョウ、キリギリス、ホタルなどは、当時の生活の中でごくふつうに見られた昆虫だったと想像できます。

 しかし、その中に唯一昆虫ではない海の生物、ワレカラが出てくるのです。

 ワレカラは比較的小さな海の生物で、日本では 100種類くらいが知られています。エビやカニに近いなかまですが、姿かたちは昆虫のナナフシに似ており、海藻などにつかまって暮らしています。

 一方、日本では古くから海藻を大切な食料として利用してきた歴史があり、「枕草子」が書かれた平安時代には、海藻にまぎれている「虫」みたいなワレカラの存在が日常的だったのでしょう。

 それから千年の時が過ぎ、平成時代に生きる私たちが、ふだんの生活でワレカラを見ることは、まずありません。いかがですか? なんとなく実物のワレカラを、“われから”見てみたくなりませんか?

 では、葛西臨海水族園「東京の海」エリアの2階「アマモ場の小さな生き物たち」の水槽でオオワレカラを探してみましょう。オオワレカラは本州内湾のアマモ場で多く見られ、名前のとおりワレカラのなかまでは大型で、体長6センチほどになります。細長い体をまっすぐに伸ばして、ぴったりとアマモの葉にしがみついています(写真)。

 オスとメスの見きわめにもチャレンジしてみましょう。メスの腹側には「育房」と呼ばれる部分があり、オスよりやや太めの体つきをしています。メスは産み出した卵を、その「育房」の中で守ります。卵はこの中でかえり、親とそっくりの姿をした小さな子どもが出てきます。

 その後子どもたちは、しばらくのあいだ、メスの体にしがみついて生活します。これは敵から子どもを守る行動と考えられており、ほかの種類のワレカラでも知られています。タイミングがよければ水槽内でそのようすも観察できますが、子どもがまだ小さいうちは肉眼で確認するのはむずかしく、メスの体が毛羽立っているように見えます。オオワレカラは水槽内でいちばんの隠れ上手です。見つからないときは、水族園スタッフにお気軽にお声をおかけください。

写真上:オオワレカラのオス
写真下:オオワレカラのメス

〔葛西臨海水族園飼育展示係 金原功〕

(2008年08月29日)



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