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シリーズ井の頭自然文化園のカエル No.11
 イモリ
 └─井の頭 2008/08/15

◎かつては身近な生き物、いまは絶滅危惧種

 シリーズの最後はイモリ。カエルのなかまとして紹介させていただきます。イモリとヤモリは、名前ばかりか、姿かたちもよく似ていて、よく混同している方がいます。

 イモリはカエルのなかまで両生類。田んぼや小川などで見られます。ヤモリはヘビやトカゲのなかまで爬虫類。家の中や外壁、木などで見られます。それぞれ、「井守」「家守」と漢字をあてると、覚えやすいでしょう。

 はっきりした違いは、卵でわかります。イモリは卵を水中に産み、卵はゼリー質に包まれています。一方、ヤモリは卵を木の皮の下などのすき間などに産み、卵はニワトリの卵のような感じの、薄い殻に包まれています。

 イモリのお腹には、特徴的な黒と赤のまだら模様があり、アカハラとかアカハライモリなどとも呼ばれます。ただ、みんな赤いわけではなく、オレンジ色や黄色っぽいものも見られます。イモリの皮膚には毒があることから、この目立つ色彩は捕食者に対して「毒があるぞー」と告げる「警告色」ではないかといわれています。お腹の色彩斑紋は個体ごとに違い、成体ではかなり安定していて、何年もほとんど変化しないので、個体識別の手がかりに使うことができます。

 かつては平野から標高2000メートル以上の山地にかけて、湿地、水田、池、湖、小川など、多様な水辺に生息し、年配の方ならだれでも見たことがある、身近でごくふつうの生き物でした。

 ところが、近年発行のレッドデータブックを見ると、東京都はもちろん、千葉県、埼玉県、群馬県、栃木県などで絶滅が心配されており、関東の平野部では壊滅的な状況です。そして、とうとう2006年の環境省の全国版レッドリストでも「準絶滅危惧種」に指定されてしまいました。都市化にともなう生息地の破壊、河川の護岸工事、田んぼの整備工事(圃場整備事業)、農薬など、さまざまな問題がイモリを追い詰めています。

 井の頭自然文化園は、葛西臨海水族園と多摩動物公園野生生物保全センターとともに、東京のイモリの保全活動に取り組んでいます。都心に近い生息地で、産卵ができ、幼生が育つ場所を造成するとともに、生態調査をおこなっています。飼育下でも、東京産のイモリの保存、繁殖に取り組み、もちろん展示もしています。じつは、今まで展示していたものは東京産ではありませんでしたが、2008年8月12日から東京産イモリの展示を始めました。

〔井の頭自然文化園水生物館飼育展示係 荒井 寛〕

(2008年08月15日)



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