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今しか見られない?! ムフロンの赤ちゃん
 └─多摩  2008/05/09

 4月29日といえば世間では大型連休の始まりですが、多摩動物公園では、この日“初出勤”を果たしたムフロンがいます。それは、生後約2か月のオスの「蓮」(レン)。蓮が生まれてくるときのようすをレポートします。

 2008年3月4日午前8時29分、母親サトミの陰部から赤ちゃんの片足がほんの少し出ているのを発見。サトミは呼吸が荒く苦しそうです。去年難産だったため、今回も難産を予想していました。8時40分、両足と鼻先が出てきましたが、結局人の手で引っ張り出すことになりました。

 飼育係2人が母親を押さえます。わずかに出ている赤ちゃんの鼻先がヒクヒク動いていました。「よかった、生きてる!」。獣医がサトミのいきみに合わせて赤ちゃんの足をゆっくり引っ張ると、そのたびにサトミは背中を丸めていきみ、足をバタつかせます。「もう少しだから、がんばれ!」──その場にいた誰もが思ったはずです。

 引っ張り始めて5分後の9時18分、赤ちゃんが出てきました。すかさず獣医が赤ちゃんを逆さにして羊水を吐き出させてから、口の中の羊水を吸いとります。生まれた赤ちゃんは、かわいらしい大きな目が印象的。タオルで体を拭いてやってから、赤ちゃんをサトミにこすりつけ、人の匂いを消し、母親の匂いをつけます。

 それから私たちは部屋を出て、親子を見守りました。サトミは不思議そうに赤ちゃんを見つめていましたが、すぐに近づいて体を舐め始めました。そして赤ちゃんが立ち上がったのが生後たったの10分。生まれたばかりの赤ちゃんが力を振り絞って立ち上がるすがたは感動的でした。

 蓮と名づけられた赤ちゃんはすくすく育ち、4月29日の朝、に群れ入りの時を迎えました。これまでと違う環境の中、おとなのムフロンたちとの初対面。群れ入りは動物にとっても、飼育係にとっても緊張の瞬間です。扉を開けて連とサトミを群れの方へ導きますが、警戒した親子はなかなか足を進めません。見守る私たちも少し不安でしたが、お昼ごろには群れにまじってえさを食べるようになりました。

 そして2008年5月11日には、蓮の弟分であるラルフが群れ入りを迎えようとしています。ラルフは4月1日にトモコが生んだオス。ラルフも蓮と同じく難産での誕生でしたが、すくすくと成長してきました。何事もなく群れ入りしてれるはずです。

 さて、ムフロンのおとなのオスには立派な角が生えていますが、赤ちゃんオスも、生後1か月経つと小さな角が毛の間に見え始めます。そう、記事タイトルで「今しか見られない?!」と書いたのは、この角のことなのです。3月生まれの蓮には長さ約3センチの角がすでに生えていますが、4月生まれのラルフの角は毛のあいだに少し見える程度で、まるでつむじのようです。

 ラルフが群れ入りを果たすこの週末(5月11日)は、赤ちゃんムフロンたちの角のちがいを観察できる絶好のチャンスです。担当者も驚くほどのはやさで成長するムフロンたちに会いに多摩動物公園にいらっしゃいませんか?

写真上:2008年3月4日生まれの「蓮」
写真中:2008年4月1日生まれの「ラルフ」
写真下:5月11日に群れ入りを控えたラルフと母親トモコ

〔多摩動物公園南園飼育展示係 小林香緒里・吉田真理子〕

(2008年05月09日)



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