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雪の日のモウコノウマ
 └─多摩  2008/02/15

 先日、2008年2月3日はひさびさの大雪でした。多摩は都心以上の積雪で、とにかくすべてが白一色に覆われてしまいました。そんな雪の日、多摩動物公園のモウコノウマたちが見せた行動についてお話ししましょう。

 モウコノウマは中央アジアの草原に生息する、現存する唯一の野生馬です。野生では一度絶滅してしまいましたが、その後の取り組みにより、野生復帰のプロジェクトが進められ、個体数は順調に増えています。

 多摩では現在、4頭のモウコノウマを飼育しています。モウコノウマは臆病でありながら、好奇心旺盛な動物です。この雪の日、まずはオスのレオ(24歳)とメスのサーシャ(16歳)を室内から放飼場へ出しました。2頭ともいつもと変わらぬようすで出舎し、用意しておいた餌へと真っ先に向かったので、こちらとしては少し拍子抜けです。

 つづいて、2頭の子どもたち、メスのダイアナ(5歳)とエーコ(3歳)を出舎させます。なかなか部屋から出たがらないときもあるので、今回も驚いてすぐには出てこないかもしれないと思いつつ扉を開けると、予想に反してすんなりと放飼場へ出ていきました。しかし、すぐに餌に向かうことはなく、いつもと違う外のようすに興奮したのか、柵越しの木に近づいていき、枝に噛みついては積もった雪が落ちてくる、という行動を繰り返したり、2頭で放飼場中を駆け回ったり、落ち着かないようすでした。

 とくにエーコは雪を食べたり、溶けてシャーベット状になった雪をまた食べてみたり、刻々とかたちが変わる雪に好奇心いっぱいなようすがうかがえました。次の日は、地面にできた水たまりを前肢でしきりにかいていました。ちなみに、その1週間後の日曜にまた雪が積もりましたが、2月3日ほどの反応は見られませんでした。

 このように、雪の降る寒さの中でも活発に活動できるのは、彼らの体を覆う毛のおかげです。モウコノウマの体毛は、多くの哺乳類と同様、体温の保持、皮膚の保護、知覚機能など、さまざまな役割を担っています。とくに今の時期は毛足の長い冬毛が生え、さらに寒冷期に適した体つきになっているのです。そして暖かくなると冬毛は抜け落ち、夏毛へと変わっていきます。

 ダイアナやエーコの体毛は、子どもどうしでじゃれあったり、若さゆえの代謝のよさが働いたりしているのか、自然に少しずつ抜け変わっていくようで、毛の抜けかわりはさほど気になりません。しかし、これら2頭の親であるレオとサーシャは、昨年(2007年)は1頭ずつ交代で外に出していたので、室内では動物舎のどこかに体をこすりつけたり、外では砂浴びを頻繁に繰り返したりすることにより、毛を落とすようにして変わっていきました。清掃時には、室内の壁や放飼場の砂地にごっそりと抜け落ちた毛が残っていました。それでもレオは毛量が多いまま夏を迎え、昨年の猛暑は本当につらそうでした。そんなレオにはこの寒さの方がまだよいのかもしれません。

 小春日和の日には目を細めて気持ちよさそうにたたずんでいるレオですが、冬毛の抜け落ちが始まると、そろそろ本格的な春の訪れと感じる今日このごろです。

〔多摩動物公園南園飼育展示係 前田由里香〕

(2008年02月15日)



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