昨年11月のニュースで、ソデグロヅルの「アブちゃん」をご紹介しました。飼育係が作業をしていると、そっと背後に忍び寄り、挑みかかってくる「危ない」個体です。
・ニュース(2007年11月2日)「
そっと忍び寄るソデグロヅル『アブちゃん』」
しかし、飼育係のあいだで、動物園でいちばん恐れられている鳥、それは、ソデグロヅルの「緑」です。アブちゃんより怖いので、「大アブちゃん」と呼ばれています。
緑は1985年、アメリカの国際ツル財団で孵化し、翌1986年に多摩に来園したオス。今年で23歳を迎えました。アメリカでは人間によって育てられたため、飼育係を仲間と思っているようです。しかも、ソデグロヅルは仲間に対する主張が強いツルのようで、飼育係が近寄ると、入ってくるなと威嚇してきます。
サル山から谷に目をやると、ソデグロヅル用の丸いケージが三つ見えますが、緑がいるのは、サル山にいちばん近いケージです。給餌しようとケージに近づくと、緑はそっと忍び寄ってくるどころか、飼育係めざして一直線にダッシュし、ケージの入口で激しく威嚇してきます。飼育係が育てたからといって、人間に慣れておとなしくなるわけではないのです。
人間を仲間と思っている大アブちゃんですが、ちゃんとメスのソデグロヅル「白」を選んでペアになりました。ただ、人間に育てられた緑は交尾ができないという問題をかかえていたため、人工授精によって卵を得て、抱卵させることになりました。心配に反して、2羽は卵を交替で抱き、孵化後もひなを攻撃することなく、無事に育てあげました。
ただし、繁殖期になると大アブちゃんの危険度は増します。抱卵中であっても、飼育係が近づくと、抱卵をやめて威嚇してきます。そのとき、白が代わりに抱卵しに行くのですが、頻繁に抱卵をやめられると頭にくるようで、すぐに卵をほったらかしにする緑に対して、軽く攻撃する行動が見られます。白の攻撃を受けた緑は、すぐ抱卵に戻るわけではないものの、ふだんの強気なようすが見られず、一瞬ひるんでいるようです。飼育係にとって危険な大アブちゃんですが、奥さんの前で、このときばかりはおとなしく振るまいます。
今年も春には繁殖期を迎えるソデグロヅル。ちょっと危険なツルたちですが、生息地の環境悪化により絶滅が危惧されている鳥たちです。今年も無事に子育てがうまくいくように願っています。
また、大アブちゃんと格闘している飼育係に声をかけるのは、どうぞおひかえください。飼育係も緊張して作業中ですので、そっと見守ってくださると助かります。
写真上:“大アブちゃん”こと「緑」
写真下:手前が「緑」
〔多摩動物公園南園飼育展示係 土屋泉〕
(2008年01月25日)