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ミヤコタナゴの産卵が見られます
 ──井の頭 2007/03/30

◎文化園四季折々

 ミヤコタナゴは、二枚貝の殻の中に卵を産みつける変わった習性があります。その産卵のようすを、運がよければ、井の頭自然文化園の展示水槽で観察することができます(8~9月ごろまで)。

 二枚貝は、呼吸のため、またプランクトンを食べるために、水を吸い込んだり吐き出したりしています。成熟したミヤコタナゴのメスは、長い産卵管を発達させ、それを貝の出水管に差し入れて卵を産み落とすのです。産卵は一瞬のできごとで、その行動を目で追うのはむずかしいかも知れません。

 メスが卵を産むとすかさずオスが精子をかけます。展示水槽では、たくさんのオスが集まって精子をかけるので、その行動で産卵があったとわかります。卵は貝のえらに引っかかり、そこで孵化します。孵化個体は卵の栄養で育ち、泳げるようになると貝から出てきます。貝の中は、硬い殻で守られているうえ、きれいな水もたえず入ってくるので、卵にとっては理想的な環境といえるでしょう。

 ミヤコタナゴをはじめ、タナゴのなかまは二枚貝の中に産卵する習性があり、いずれも二枚貝がいなければ暮らしていけない魚たちです。一方、二枚貝にはイシガイ、ドブガイ、マツカサガイなど10数種が知られています。タナゴにとって産卵するのはどの貝でもいいというわけではなく、それぞれのタナゴにそれぞれ好みのタイプがあります。

 現在、ミヤコタナゴの産卵のために使っているのはカワシンジュガイという貝で、わざわざ北海道から採集してきたものです。カワシンジュガイはミヤコタナゴの好みの貝であり、北海道にはほかのタナゴがいないため、貝の中にすでにほかのタナゴの卵が入っている心配がないので使っています。

 ミヤコタナゴは絶滅が心配され、天然記念物に指定されていますが、カワシンジュガイの方も絶滅が心配されている二枚貝です。そして二枚貝の飼育はむずかしく、長期間生かしておくことができません。このため、千歳サケのふるさと館のご協力を得て、毎年春に採集し、秋にミヤコタナゴの繁殖が終わったら、貝は採集した川に戻しています。

 今年も北海道へ出かけ、雪が降る中、手がしびれるほど冷たい水の中から貝を採集してきたばかりです。貴重な貝なので、みんな生きたまま川へ戻したいと思います。

〔井の頭自然文化園水生物館飼育展示係 荒井寛〕

(2007年3月30日)



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