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水辺に咲くお正月の花──葛西 2007/01/12

 葛西臨海水族園の「水辺の自然」エリアをゆっくりと観察しながら歩いていると、あざやかな黄色がひときわ目立つ、直径3センチから5センチほどの小さな花を目にします。フクジュソウ(福寿草)という花で、元日草(がんじつそう)、朔日草(ついたちそう)という名でも知られています。いわれてみれば、まるく開いたあざやかな花は、さわやかな元旦の朝日にも見えます。

 一般に、開花時期は2月初旬から3月ごろ。旧暦のお正月に開花するので、鉢植えにして正月の床飾りにした習慣が、新暦の正月にも伝わり、今日、年の暮れから正月用に促成栽培のフクジュソウが出まわります。

 フクジュソウはキンポウゲ科に含まれ、学名は Adonis amurensis。Adonis(アドニス)はギリシャ神話に登場する美青年の名前です。そのアドニスに愛の女神アフロディテが恋をしてしまいます。軍神アレスは恋人アフロディテが人間に夢中になっていることに怒り、狩りに出たアドニスを、イノシシに突かせて殺してしまいます。そのとき、アドニスの流した血からアネモネ(これもキンポウゲ科)の花が咲いたといいます。というのも、欧州産のアネモネの花は黄色ではなく赤色。それで、青年アドニスの傷から流れ出る血になぞらえられたようです。ちょっと縁起のよいたとえではありませんが、今年の干支イノシシにも縁のある花のようです。

 しかし、ギリシャ神話一の美青年になぞらえられるほどの美しさに似合わず、フクジュソウは毒性がとても強く、食用にはなりません。「美しいバラにはトゲがある、かわいいアネモネには毒がある」といったところでしょうか(ちなみに、先ほどの話にはつづきがあって、アドニスが死んだときにアフロディテが流した涙からバラが咲いたのだそうです)。

 フクジュソウは光にとても敏感で、日があたらないと1分から2分でしぼみ、日がさすとふたたび花をひらく習性があります。咲いているすがたを探すなら、よく晴れた日の昼間、日の高い時間をおすすめします。淡水生物館を出てすぐの橋の周辺で、日あたりのよさそうな場所を探すと、つつましげに咲いているすがたをごらんになれるでしょう。さわやかな冬晴れの日、「水辺の自然」エリアでのんびり探索してみてはいかがでしょうか。

〔葛西臨海水族園飼育展示係 飛田英一朗〕

(2007年1月12日)



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