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キリン「ハルヤ」、輸送の顛末(前編)──多摩 2006/12/08

 2006年11月16日、盛岡市動物公園からキリンのオスが来園しました! といっても、1995年8月24日に多摩動物公園で生まれ、1998年に繁殖のために盛岡市動物公園に「出かけて」いた「ハルヤ」という11歳の個体(母親はハルコ、父親はフジ)。「戻ってきた」といった方がふさわしいでしょう。

 多摩では1999年に繁殖個体だったオスの「ヤマト」が死亡。その後、2000年から2005年にかけて4頭のオスが死んでしまい、繁殖が5年間とどこおっていたため、“即戦力”としてハルヤが戻ってくることになったのです。

◎キリン輸送の準備

 しかし、キリンのオスの輸送は大変な作業です。しかも、10歳を超える個体のオスの輸送は多摩でも経験がありません。1999年には、沖縄から当時6歳のオス「キリオ」を運んだことがあったので、その経験を参考にしました。

 多摩にはキリン用の輸送箱が二つあり、ほぼ同じ大きさです。ところが、ハルヤが箱に入るかどうか心配になり、10月上旬には盛岡まで確認しに行きました。近くで見るハルヤは大きく、頭までの高さは4.7メートルほどありそうです。しかし通常、キリンはその長い首を前に寝かせて運ぶため、肩の高さが重要になります。ハルヤの肩の高さは、実測でちょうど3メートル。輸送箱内の高さは最大で3.2メートルなので、箱には入りそうです。

 なお、ハルヤは盛岡では「リック」と呼ばれており、メスのリリーとのあいだに、リッキー(オス、2000年12月生まれ)、リリカ(メス、2002年6月生まれ)、リンリン(メス、2005年4月生まれ)の3頭をもうけています。

 さて、頑丈に作られている輸送箱ですが、二つとも年数が経っています。かつて「キリオ」を運んだ箱を使うことにしましたが、キリオ輸送の際、壊れるかと思うほど箱がゆがんだそうですし、また、頭や首が箱の外に出てしまうことも考えられるので、補強もかねて天井部分を張りかえました。

 輸送箱はハルヤ搬出日の2週間前に盛岡に送りました。盛岡では箱への出入りの練習をします。幸い、ハルヤはすぐ箱に慣れてくれたそうです。

◎盛岡での搬出作業

 搬出作業は11月15日朝。私たちは前日に盛岡に入り、担当者や運送業者との打ち合わせを進めておきました。予報では雨でしたが、朝起きると雲間から青空が少し見えます。雨の前に作業を終えられるかもしれない、そう期待しながら現場に向かいました。しかし、数日前の盛岡は雪だったとのこと。寒さは東京の真冬なみです。外に立っているだけで手足の先がかじかみます。

 時間になり、私たちは白い息を吐きながら、箱入れ作業を開始しました。いつもとちがう気配を感じたのか、ハルヤは2、3回いやがるようすを見せましたが、素直に箱に入ってくれました。箱の中でも落ち着いたようすで、作業の音に反応して暴れるようなこともなく、むしろ作業を“見守っている”ような印象でした。ただ、狭い箱の中で回転できてしまうのは想定外でした。折れるのではと心配になるほど首を曲げ、器用に回転するその行動には、あっぱれ!としか言いようがありませんでした。

 キリンの入った箱は相当重く、箱から園路までの距離もかなりあるので、25トンクラスのクレーン車を使います。トラックは、箱の高さが道路から4メートル以下になるよう、低床車両を準備しました。やがて空から雨が落ちてきました。雨、そして輸送中の寒さからハルヤを守るため、箱全体を厚いシートでカバー。通常ならキリンが外を覗けるようにするのですが、今回は保温を優先し、全体を覆うことにしました。

(このニュースの後半はこちらをごらんください。)

〔多摩動物公園飼育展示課 清水勲〕

写真上:フォークリフトでトラックから輸送箱を移動
写真中上(左):ハルヤが天井を突き破る!
写真中上(右):「すいません、頭出ちゃいました」
写真中下:ハルヤ(右)に対して興味深げなメスたち
写真下:無事室内に入ったハルヤ

(2006年12月8日)



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