水族園の大水槽。スマートな体を光らせてスーッと泳ぐマグロのあいだを、ヒレをゆっくりと動かして泳ぐマンボウ。ユニークな姿形とともに、のんびりとした雰囲気が人気の秘密のようです。このマンボウが東京湾からやってきた、というと、皆さん驚くかもしれませんね。
先週のことでした。朝、千葉県船橋市の漁師さんから突然の電話。「巻網」(まきあみ)漁でマンボウが獲れたので、取りにおいでというのです。船橋といえば、水族園から車で30分たらず。こんな身近なところでマンボウが獲れるとは!と驚きながら、すぐに準備をして駆けつけました。
港につくと、巻網船の大きなカンコ(甲板にある生け簀)の中に、マンボウが! 体に目立った傷もなく、状態はよさそうです。漁師のみなさんが、他の魚はそっちのけで、最初にマンボウをすくってくれたとのこと。いっしょに網に入った大量のミズクラゲがクッションになったのも運がよかったようです。
さて、でもどうやって船のカンコから、車に積んだタンクに移そうか……。マンボウは全長約1メートル、非常に重く、深いカンコから持ち上げるのは大変そう。しかし、漁師さんたちの機転と連携プレーのすばらしいこと! 私たち職員の出る幕もないまま、マンボウはていねい、かつ迅速に車のタンクに収容されました。
マンボウを獲ってくれた巻網船「大平丸」は、東京湾でおもにイワシ、スズキ、コノシロなどをねらって漁をしています。マンボウは、アクアライン(東京湾横断道路)の近くでスズキをねらった網に入りました。
じつは、内房の勝山や富山など、東京湾口近くでマンボウが獲れるのは珍しいことではありません。初夏になると定置網に何十個体も入り、食用として市場に出まわるようです。
しかし、今回のように東京湾の奥の内湾(千葉県の富津岬と神奈川県の観音崎を結んだ線より内側)で獲れるのは、とても珍しいことで、大平丸さんにとっても数十年来だということです。
ところで、みなさんは、東京湾というとどんな風景を思い浮かべるでしょう? 高層ビルや工場が立ち並ぶコンクリートで固められた海岸線、茶色く濁った水でしょうか。とくに東京湾の内湾部の海岸線は、ほとんどが埋め立てられ、悲しいほど人工的な景色が続きます。しかし、そこにはイワシやスズキなどの江戸前の魚が獲れ、アサリやノリなどが育ち、マンボウも訪れる豊かな海がまだ残っているのです。
マンボウって東京湾にもいるんだ!、東京湾ってどんな海なんだろう?、と思ったら、ぜひマンボウだけでなく、水族園の「東京湾の海」の展示もじっくりごらんください。東京湾が身近に感じられるかもしれませんよ。
〔葛西臨海水族園調査係 天野未知〕
(2003年07月07日)
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