親と子の姿が似ても似つかない生き物といえば、みなさんは何を思い浮かべるでしょうか? イモムシとチョウ、ヤゴとトンボなど、昆虫のなかまを思い浮かべるかもしれません。じつは、海の生き物にも、とても同じ種とは思えないほど、親と子で姿のちがう種類がたくさんいます。
「東京の海」のコーナー、「伊豆七島」の水槽に展示されているコブセミエビを見てみましょう。ずんぐりむっくりとした大型のエビです(写真上)。
さて、その子ども(幼生)の姿は?──これまで「実験展示」コーナーでお見せしていましたが、残念ながら数がへってしまったので、写真下をごらんください。
透明でうすっぺらな体、先端がブラシのようになっている長い足、飛びでた眼、なんだかヘンテコな格好をしています。とても親子とは思えませんね。
コブセミエビの親子は姿がちがうだけでなく、くらしかたもまったくちがいます。水槽の岩棚をノソノソと歩きまわる親は、自然の海でも浅い海の岩場でくらしています。
では幼生は?というと、海中で浮いてただようくらし、つまり浮遊生活をしているのです。ひろ~い海をこんな小さな生き物がただよっているなんて、想像がつきませんね。でも、驚くなかれ! エビもカニも、ウニもヒトデも、沿岸の海底でくらす海の生き物のほとんどが、子どもの時期には、親とまったく違う姿で浮遊生活をしているのです。
幼生のヘンテコに見える姿も、そのくらしかたがわかると納得。透明でうすっぺらな体は、水の中では敵に見つかりにくいし、足にはえた細かい毛は水中に浮くのに役立ちそうですね。幼生の体は小さく、未発達で、泳ぐ力もあまりありませんが、ただようくらしに便利な、いろいろな工夫をもっているのです。
では、姿もくらしも異なる親子は、どうやってつながるのでしょう? 幼生が浮遊生活をおえて、親とおなじようなくらしを始めるとき、体にも大きな変化がおきます。海の底でくらすのに適した姿や機能をもつようになるのです。イモムシがさなぎをへて、チョウになるのとおなじような変化が、コブセミエビにもおきるというわけです。
コブセミエビの幼生は、ある朝水槽をのぞいていた飼育係が見つけました。水中に設置された蛍光灯に小さなクモのような「ムシ」がたくさん集まっていたのです。
すこし前に、コブセミエビの1匹がおなかに卵をかかえていたので、幼生だ!と、ピンときたわけです。水槽から取り上げ、別の水槽でブラインシュリンプなどの小さなえさを与えて育てています。最初は体長が2ミリほどでしたが、2回脱皮をして約4ミリにまで成長しました。
資料によれば、コブセミエビの幼生は、数か月の浮遊生活のあいだに約4センチまで成長するそうです。
〔葛西臨海水族園調査係 天野未知/飼育係 中村浩司〕
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