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強力つっぱり棒をもつパイプウニ──葛西 2005/12/09
 みなさん、ウニといえば、いがぐりのようなトゲトゲのすがたを思いうかべるでしょう。ところが、おなじトゲトゲでも、ちょっと変わったトゲをもつウニが、「東京の海」のコーナー、「小笠原の礁」の水槽に展示されています。先月、小笠原から搬入された「パイプウニ」です。そのトゲを見てみると、とにかく太い! 太くて短いエンピツのようなトゲです(写真上)。南の島のみやげもの屋で、パイプウニのトゲを何本かつなげて作った風鈴が軽やかな音をたてていることがありますが、むかしは装飾品としても珍重されていたそうです。

 とてもユニークなかたちのトゲですが、このトゲの本当のすごさは、採集にトライしてみるとよくわかります。パイプウニは比較的波あたりの強いサンゴ礁にくらしており、昼間は岩の狭いすきまなどに入りこんでいます。さて、これを引っぱり出そうとすると……。太いトゲがつっぱり棒となり、ウニの体は引いても押してもビクともしません。

 トゲの細いムラサキウニなら、ドライバーなどで体を引っかけて取り出すことができますが、パイプウニはこの方法でも引っぱり出せません。それほど太いトゲは頑丈なのです。このつっぱり棒は、身を守るととともに、波にさらわれないためにも役立ちますね。

 さらに、おもしろいのはトゲのしくみです。みなさん、ウニはトゲを立てたり倒したりできることを知っていますか? 水槽のパイプウニを見てみましょう(写真下)。トゲを立てたままでは、とても入れなさそうなすきまに入りこんでいます。つまり、トゲを倒してすきまに入ったのです。

 この、立てたり倒したりできるトゲがつっぱり棒に変身するしくみには、トゲの根元にある特別な組織が関係しています。この組織が硬くなると、トゲはがっちり固定されて動かなくなり、軟らかくなると自由に動きます。ウニはどの角度でもトゲを固定することができ、しかもその力は異様なほどの強さ。無理に倒そうとすればトゲが折れてしまいます。せまいすきまに入りこみ、まわりの岩壁の角度にあわせて何本もあるトゲを固定すれば完璧!なるほど引っぱり出せないはずです。というわけで、どうやって採集するのかというと、小型の岩が積み重なっているような場所をえらび、岩をどけたときに、運よく転がり出た個体だけを採集するのです。

 さて、葛西臨海水族園の水槽では、どうやって入ったの?と不思議になるほど小さなすきまに入りこんだパイプウニをさがしてみてください。適当なすきまが少ないせいか、岩の外にでている個体もいますが、ちょうどいいすきまにスッポリと入ったウニは、安全で居心地のよい家に大満足?のようですよ。

〔東京動物園協会調査係 天野未知〕

(2005年12月09日)



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