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特別なフックでメスと交尾──葛西 2005/10/14
 先日、カナダのバンクーバーより「スポッテッドラットフィッシュ(以下ラットフィッシュ)」が搬入され、展示にくわわりました。今回はこのユニークな魚の不思議な「フック」について紹介しましょう。

 まずユニークなのは、その顔です。前方にとがった顔に、大きくつぶらな目。口は顔の下側にあり、上あごからは二枚の板状の歯がのぞきます。名前のとおり、ウサギのような愛らしい顔。でかい頭のわりに体つきは貧弱で、尾にむかって細く伸びています。

 泳ぎ方はというと、うちわのような大きな胸びれをゆっくりと動かし、体を上下に揺らしてゆっくり泳ぎます。なんとものんびりした雰囲気の魚です。

 ラットフィッシュはギンザメのなかま。世界で約30種たらずの小さなグループです。このグループのほとんどは深海の海底近くでくらしており、日本沿岸の深海にもギンザメなど約10種が生息していますが、採集も飼育も簡単ではありません。

 しかし、ラットフィッシュは、このグループとしてはめずらしく、ダイバーでも観察できる十数メートルの浅場まであがってくるため、水槽で生きた姿をお見せすることができるのです。かれらの不器用な泳ぎ方を見ていると、昔は繁栄していたかれらが、いまは深海に追いやられ、細々と生き残っているという説にも納得できます。

 さて、さらに興味深いのは、オスがメスにはない、特別な器官をいくつももっているのことです。ひとつは腹びれの前に2本ぶらさがっている交接器、いわゆるオチンチンです。同じような交接器はサメやエイのなかまにも見られます。

 ふたつ目は「フック」です。オスの頭に楕円形の白い模様をさがしてみてください。横から見ると先っぽがふくらんだ突起がそこに収納されています。オスは交尾の際、このフックを使ってメスの胸びれをつかむのです。フックの先端には、相手をしっかりとつかまえるため、小さなトゲがたくさんついています。水族園の水槽でも、ラットフィッシュがこのフックを使うようすが観察されています。

 さらに、三つ目のフックももっているのですが、こちらはふだん、腹びれの前のくぼみにすっかり収納されていて見えません。

 このように、ラットフィッシュは交尾のための器官を3種類ももっており、これはほかのギンザメのなかまにも見られる特徴です。細々とではありますが、かれらが生き残っている理由は、メスをしっかりとはなさないこのフックにあるのかもしれませんね。みなさんも特別なフックをさがしてみてください。

〔東京動物園協会調査係 天野未知〕

写真上:スポッテッドラットフィッシュ
写真下:オスの頭にある特別な「フック」

(2005年10月14日)



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