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ペンギンの”バンブルフット”の治療
 └─葛西 2025/08/01
 「バンブルフット」(bumblefoot)とは直訳すると「ふらふら歩く足」といった意味で、日本語ではおもに「趾瘤症」(しりゅうしょう)と呼ばれる、飼育下の鳥類によく見られる病気です。今回は、この病気の治療についてお伝えします。

 本来海でくらし、水中や水上での滞在時間が長いのがペンギンなどの海鳥ですが、飼育下では、硬く擦れやすい地面にいる時間が長くなる一方で、水中で泳ぐ時間は少なくなくなってしまいます。これにより足の裏の血の巡りが悪くなると、タコやウオノメのようなものができて炎症を起こしてしまい、腫れや痛みから、跛行(はこう:足を引きずって歩く)するようになります。

 趾瘤症は悪化すると小さな傷口からの細菌感染が全身におよんでしまったり、炎症が長く続くことで全身に問題が起こったりするため、飼育下では予防が課題で、発症した場合には早期発見し治療に繋げることが重要になります。

 葛西臨海水族園においても予防のため、水中・水上での滞在時間を増やすくふうをおこなっていますが、趾瘤症の発生を完全に防ぐことは難しく、加齢や換羽、繁殖などにより運動量が減ることで足の裏の状態が悪くなる個体が増加する傾向にあります。

 趾瘤症が見られた個体には、患部をテーピングによって保護し、クッション材をいれることで足の裏へかかる負荷を軽減したり、薬も用いたりして治療していきます。また、重度の場合には、外科的に壊死組織を取り除くこともあります。

 個体により趾瘤の状態がさまざまであるため、症状を見極めて、それに合う対応をしています。

 写真の個体は、傷口自体は小さいものの、足全体が熱をもって大きく腫れてしまい、跛行していました。薬での改善がみられなかったため、麻酔をかけて傷口を切開し内部の壊死組織を取り除きました。時間をかけて傷口のケアをおこなった結果、徐々に腫れは軽減し、数か月後には跛行もなくなりました。

処置前の足裏
熱をもって全体が大きく腫れている
状態が改善した足裏

 展示場でテープやくつ下のようなものを足に巻いているペンギンを見かけることがあるかもしれません。それは趾瘤症の治療をおこなっている個体なので、温かく見守っていただけると幸いです。今後も日々の予防に力をいれるとともに早期発見を心がけ、適切なケアを提供していきます。


足にテープを巻いたミナミイワトビペンギン(足裏の写真の個体)

〔葛西臨海水族園飼育展示係 林万里菜〕

(2025年08月01日)


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