こちらでお知らせしたとおり、2025年1月21日に上野動物園のアジアゾウ「ウタイ」(メス)と「アルン」(オス)の母子分離を実施しました。
その直後はウタイに若干の動揺が見られましたが、それから2日、3日と経つうちに、目に見えてウタイも落ち着きを取り戻していきました。飼育係の呼びかけにも反応し、採食も安定するようになりました。アルンと離れ、何日かすごすうちに、もういっしょにならないことを理解したようでした。4年間、アルンの成長とともにさまざまなことがあり、思い返せばあっという間ですが、なによりもウタイが母親として1対1でアルンに向き合いここまで育てあげたことに感銘を受けるとともに、飼育担当者として感謝の気持ちでいっぱいです。
分離から5日目、舎内での新しい生活には全頭が慣れてきたため、屋外に放飼するためのステップを開始しました。
2023年以来、ウタイと「スーリヤ」(メス)の同居を見合わせてきましたが、母子分離したこのタイミングでもう一度試してみることにしたのです。前回は放飼場で実施したところ、スーリヤがウタイに対して威圧的な態度で執着したため中止しました。
そこで今回は舎内で、隣り合った部屋の扉を開放することで同居する方法でおこないました。互いに緊張しながら距離を詰めていきましたが、スーリヤがウタイに対し頭突きをするなど好意的でない接触が起きてしまいました。そのまま長時間続けても関係が悪化する可能性が高いと判断し、中止せざるをえませんでした。

ウタイ(左)とスーリヤ(右)の室内同居試行(2025年1月25日撮影)
この結果を受け、今後の放飼パターンとして、ギフトショップ側の大きな放飼場を仕切って2つの区画に分け、スーリヤとウタイの2頭で交代放飼をすることになりました。まずはスーリヤをプール側、ウタイを建物側のパターンから慣れてもらうことにし、1月27日の休園日から放飼練習を開始しました。スーリヤが興奮することはありましたが、全体的には予想していたよりも状況がスムーズに推移したため、翌日以降の開園日にも練習を続けることにしました。
なお、アルンは慰霊碑側の放飼場に出したところ、頼もしいことに初めての単独放飼に動じることもなく、外に出るとさっそくお気に入りのタイヤ遊具で遊びはじめました。3頭とも新しいパターンで外に出ることにも慣れていき、放飼練習の開始後4日目にはスーリヤが外で横になって休む姿も見られました。
次に、スーリヤとウタイの場所を交代して放飼練習をおこないました。すでに隣り合う場所での放飼に慣れてきていたため、ほとんど混乱なく進めることができました。今後は休止しているトレーニングの再開に向けて段階を踏んで進めていくことになります。

放飼練習のようす。建物側がスーリヤ、砂地側がウタイ(2025年2月4日撮影)
放飼しているあいだ、仕切り越しにスーリヤとウタイが鼻で触りあっていることがあります。そのようすはとても穏やかそうに見え、もしかしたら同居できるのでは……と思いたくなります。しかし、これまでの経緯から考えるとそれは難しいと言わざるをえません。仕切り越しでは互いに過度な干渉なくすごせても、同居となるとうまくいかないのがスーリヤとウタイの関係性のようです。仕切られていれば隣にいても問題ない、という関係がもし悪化してしまうと、それ以降は仕切り越しでの接触すらできなくなってしまう可能性があるため、現在の関係を維持できるよう、当面は同居しない方針で進める予定です。
これからもゾウたちのようすを注意深く観察しながら、現在の3頭にとって最適な飼育管理に努めていきたいと考えています。
〔上野動物園東園飼育展示係〕
(2025年02月08日)