生き物を理解するためには、分類学的な理解がときに必要になります。展示されている生き物が何という種かわかるのは、分類学の膨大な蓄積があるおかげです。今回はそんな分類学のお話をしてみます。
多摩動物公園の昆虫園本館には「ふれあいコーナー」があります。新型コロナウイルス感染拡大防止のため、残念ながら現在はふれあいを休止していますが、ふれあい昆虫たちの飼育はバックヤードで続けています。そんなふれあい昆虫の主要メンバーとして欠かせないのが、日本最大のナナフシ、オキナワナナフシです。その名のとおり、沖縄など南西諸島に分布しています。

写真1 オキナワナナフシの成虫
さて、このオキナワナナフシは最近、分布する地域によって複数の種に分ける考えが主流になっているようです。南大東島のものはダイトウトガリナナフシ、石垣島や西表島のものはヤエヤマトガリナナフシといった具合です。「トガリ」というのは、お尻の先が尖っていることに由来すると思われます。
多摩動物公園のオキナワナナフシは10年以上も累代飼育を続けており、私が担当したときには採集地がどこなのかわからなくなっていました。南西諸島へ採集に行く場合、出張先のほとんどが石垣島か西表島なので、おそらくヤエヤマトガリナナフシだろうと推測するしかありません。図鑑によると、オスの交尾器の形に差があるとのことだったので、死亡したオスを解剖して、その交尾器から種を同定することにしました(写真2)。
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写真2 オキナワナナフシのオス交尾器 | 写真3 オス交尾器の比較 左:足立区生物園のヤエヤマトガリナナフシ 右:多摩動物公園のオキナワナナフシ |
しかし、またもや問題発生です。私自身、ナナフシの解剖が初めてだったこともあり、自分の同定に今一つ確信をもてませんでした。そこで、足立区生物園から死亡したヤエヤマトガリナナフシのオスを譲り受け、その交尾器と比較することにしました(写真3)。
その結果は一目瞭然、まったく別物でした。多摩動物公園で累代飼育してきたものは、沖縄本島などに分布するオキナワトガリナナフシだったことがわかりました。
オキナワナナフシからオキナワ
トガリナナフシへ、名前が少し変わっただけのように思えますが、最新の分類学的知見を反映することは動物園にとって大切なことです。ふれあいが再開したら、この新しい名前でラベルを作り直す予定です。さらに、沖縄本島へ採集出張に行った過去の記録を探し出し、いつから累代飼育が続いているのか明らかにする予定です。
〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 角田〕
(2020年12月25日)