葛西臨海水族園「世界の海」エリアの「地中海」水槽は、岩場や砂地にポシドニア属の海草(以下、ポシドニア)が繁茂している環境をイメージし、そこで生活する生き物を展示しています。水槽のレイアウトを考えるときは、なるべく自然の海の環境に近づけることを目標にしています。しかし、地中海で減少しているポシドニアは保護対象となり、入手困難なため水族園では地中海の特徴的な環境を再現できないままでした。
そこで昨年度(2019年度)、ポシドニアを模した擬海草付きの擬岩(擬海草)を制作しました。制作にあたっては、実物のポシドニアに近づけるために、葉の形や色だけでなく、葉の表面の模様(葉脈)にもこだわりました。この擬海草を水槽内に設置し、自然の海に近い環境を再現することができました。
さて、気になるのは水槽内の生き物たちの反応です。自然の海ではおもにベラのなかまが巣作りや産卵にポシドニアを利用しています。「水槽でもそのような行動が見られるかも!」と期待しながら観察を続けました。最初は警戒していた魚たちも徐々に慣れ、設置から数か月経ってようやく擬海藻を利用する魚を確認することができました。

擬海草を上から撮影したところ
左の写真をご覧ください。どこに魚が隠れているかわかりますか? じつは右の黄色い楕円で囲ったところに体をうずめています。この魚はピーコックラスと呼ばれるベラのなかまです。このようすを初めて見たのは給餌のときです。えさを口で素早くとらえたピーコックラスが擬海草に体をうずめ、しばらくすると口の中にためたえさを一旦吐き出し、ゆっくり食べ直し始めたのです。また、夕方になると擬海草に包まれて休む姿も見ることができました。
自然の海で同じ行動をとるのかどうかわかりませんが、水槽内ではこうしてえさを食べたり体を休めたりする隠れ家として利用しているようです。ピーコックラスはポシドニアの茂みに産卵をするという習性があるので、今後、水槽内で産卵が確認できるのではないかと期待をしています。
擬海草の制作にあたっては、
動物園サポーターの方々からいただいた資金を活用しました。ご支援に感謝いたします。
〔葛西臨海水族園飼育展示係 石神まゆか〕
(2020年11月27日)