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四季おりおり、変化を見せるエゾシカの角
 └─上野  2016/04/08

 この時期、シカの飼育担当者にとって待ち遠しいことがあります。それは、シカのシンボルである角が落ちる「落角」(らっかく)の瞬間です。

 シカの角は1年のサイクルで生え替わります。ニホンジカは多くのシカと同様、オスのみに角が生えますが、春になると角が自然に落ち、夏にかけて新しい角が生えてきます。秋の繁殖期までには角の成長が止まって「破角」し(表面の皮が剥がれること)、茶色だった角が白くなります。繁殖期が過ぎても、冬はその立派な角を頭に生やしたまま、ふたたび春を迎えます。

 ここで、上野動物園のエゾシカ「Q」(キュー)の1年を振り返ってみましょう。昨年(2015年)は、ここ数年の中では遅めの4月25日に落角しました。その瞬間を見逃すまいと思っていたのですが、Qのそば離れていた数時間のあいだに、角は落ちてしまいました。

生え始めたばかりの角
角の表面の皮が破れる(破角)

 メスみたいになったなぁと思っている矢先、すぐに新しい角が生え始め、半月後には5センチの長さに。その後も角はぐんぐん成長し、1日で1センチ伸びたこともありました。この時期の角は中に血液が通っているため、触るととても温かく感じます。

 8月中旬、角は一番長いところで70センチ前後。ここまで伸びて成長が止まりました。その後、徐々に角表面の皮が薄くなり、皮の下の骨の凹凸が目立ってきました。破角は10月12日。角に通っていた血液も止まるため、皮が破れ始める先端から温度が下がっていきます。同時に行動にも変化が生じ、木や壁、土どめに使っている丸太など、擦りつけられるところならば何でも使って皮を剥がそうとしていました。

角にきざまれた凹凸
現在の角

 こうして、発情期を迎える頃には白くて硬い「枯角」(かれづの)が完成します。野生では、繁殖期にオスどうしで角を使って押し合い、勝者がメスと交尾をします。その本能でしょうか。この頃からQも、展示場に置かれた丸太や切り株を角で押し上げる行動を見せ始めました。20〜30キロはあるはずですが、早いときには数時間で展示場の中央から壁際まで押し運ばれてしまいます。そうするうちに角の根元は樹皮や泥で茶色く汚れ、先端の白と根元の茶色でコントラストのある角になります。

 そしてまた季節は春になり、落角の時を今まさに迎えようとしています。1年間角の変化を間近で見守っていて、変化のスピードが予想以上に早く、毎日見ていても油断すると見逃してしまうほどで驚きました。季節の微妙な移り変わりを感じ取り、シカ自身もそれに合わせて変化させていることに感心しました。

 角に刻まれた模様(凹凸)は思っていたよりも荒々しく、力強さを感じましたし、擦りつけていくことで少しずつ磨きがかかる角は芸術品のようです。上野動物園のエゾシカ展示場では、Qが近づいて来たときに、角の凹凸などを見ることができます。ご来園のうえ、ぜひご自身のイメージと比べてみてください。

・関連ニュース、動画「決定的瞬間!エゾシカの角が落ちる」(2002年3月20日撮影)

〔上野動物園東園飼育展示係 徳田雪絵〕

(2016年04月08日)


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