多摩動物公園昆虫園では、一年中ハナカマキリを展示するために、一年に何度か卵を孵しています。2013年6月末から卵をとる準備に入り、週に何度かオスとメスの成虫を同居(ペアリング)させて、交尾を試みています。
カマキリといえばよく知られている通り、交尾中にメスがオスを食べてしまうことがあります。ただ、東京でよく見られるオオカマキリなどは、オスとメスの大きさにそれほど違いがなく、仮に襲われても少しは抵抗できるので、必ず食べられてしまうということはありません。
ではハナカマキリはどうなのかというと、オオカマキリとは違い、捕まったら逃げようがなく、まず間違いなくメスのお腹の中へ直行です。なぜなら、ハナカマキリのオスはメスの3分の1程度の大きさしかなく、一見すると別種と間違えるほどの姿だからなのです。
小さく非力な体にもかかわらず、食べる気満々の強大なメスに自分から歩み寄って行かなければならないという、そんな圧倒的に不利な条件を乗り越えるため、ハナカマキリのオスはいくつかのくふうをします。
まずはメスの視界に入らないように背後から忍び寄ること、そしてメスが食事中など夢中になっているとき以外は動かないこと。いわゆる「だるまさんがころんだ」戦法です。
これでうまく隙をついてメスの背中に乗れたとしても、まだ油断はできません。その気になればメスは背中にも前脚(カマ)が届くからです。そこで、敵や餌と判断されて攻撃されないためなのか、オスはメスの背中を前脚を使って高速で何度も叩きます。これを繰り返すことで、メスは背中に乗っているのが交尾に来たオスと判断してくれるのかもしれません。
【ハナカマキリオスの求愛行動の動画】
Windows Media形式 QuickTime形式
ここまでくれば大抵交尾成功となりますが、オスによって行動の上手さにかなりの差があり、中には堂々とメスの正面から向かって行ってしまうもの、メスの前と後ろを間違えて乗ってしまうもの、背中に乗った後も前進を続けメスの頭に乗ってしまうもの、背中を叩いたのにメスから無視されるものもいます。そんなこともあり、同居中はなかなか目を離すことができず、毎年ハラハラしながら見守っています。
同居のようすは公開していませんが、展示しているメスを見ながら、オスの苦労に思いを馳せていただければ幸いです。
写真:ハナカマキリのオスとメス
〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 渡辺良平〕
(2013年07月05日)