春から初夏にかけては、海の潮が日中によく引くようになり、ふだんは水中に沈んでいる場所まで海面上に出てきて、いつもは見られないような生き物を観察できるチャンスです。今回は、東京湾のとある磯で見つけた「ウミクワガタ」をご紹介します。
ウミクワガタは、世界で200種類以上、日本でも30種ほどが確認されていますが、まだまだ新種が発見される研究途上の生物です。熱帯の海から南北両極の冷たい海まで生息し、多くは体長5ミリ以下という小さな甲殻類で、陸上のダンゴムシや磯を走るフナムシなどのなかまです。オスの成体はクワガタムシのような立派な大顎(あご)をもつので、ウミクワガタと呼ばれています。ふだんはカイメンの体の中、岩や死サンゴの隙間、ゴカイの棲管の中など、見つかりにくいような場所にくらしています。幼生の時期には魚の体液を吸う「寄生虫」として生活している飼育係にとってはちょっと嬉しくない生物でもあります。
今回観察した磯では、岩に付着しているクロイソカイメンの中から、体長約3ミリの「シカツノウミクワガタ」が30匹ほど見つかりました。
【クロイソカイメンから採集されたシカツノウミクワガタの動画】
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ウミクワガタも、もう少し大きければクワガタムシのように子どもたちのヒーローになれたのに、と思いますが、さすがに数ミリの体では、知る人ぞ知る生物ということになってしまいますね。
写真上:潮の引いた磯
写真中:クロイソカイメン、中にウミクワガタが棲む
写真下:大顎がりっぱなシカツノウミクワガタ(体長約3ミリ)
〔葛西臨海水族園飼育展示係 三森亮介〕
(2013年06月07日)