「クマドリ」という言葉で歌舞伎を思い浮かべる方は多いのではないでしょうか。歌舞伎役者が顔の血管や筋肉を誇張するために描くメイクのことです。そんな隈取りを全身にまとった役者が、葛西臨海水族園東京の海コーナー「タッチンフィーリン」の小水槽にいます。
その名もズバリ「クマドリカエルアンコウ」。体にまとった隈取り模様からこの名前がつきました。カエルアンコウ科の魚で太平洋西部に分布し、甲殻類や魚類などを食べます。魚なのに泳ぎがあまり上手ではなく、足のように見える胸びれで海底を歩くようにして移動するおもしろい魚です。
クマドリカエルアンコウの特徴は、餌となる魚などを釣りをして食べることです。頭部には「エスカ」と呼ばれる先端がフサフサの突起があり、これを疑似餌として使います。このフサフサを振り、餌と間違えて近づいてきた獲物を、大きな口でガブっと食べます。水槽の中のクマドリカエルアンコウでは、飼育係が餌を近づけたときや、お腹が空いているときなど、エスカを振るようすが観察できます。
岩の間で胸びれを突っ張っている姿は、まるで歌舞伎の見栄を切っているようにも見えるクマドリカエルアンコウ。タッチンフィーリンの小水槽は、水面ギリギリまで近づいて、じっくりと生き物を観察できる水槽です。タイミングが合えばエスカを振っているところが見られるかもしれません。でも、観察するときは水槽の中に手を入れたり、岩組を崩したりしないでくださいね。
写真:赤い隈取りが鮮やかなクマドリカエルアンコウ
〔葛西臨海水族園飼育展示係 雨宮健太郎〕
(2012年11月30日)
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