竹芝桟橋から船で25時間、都心から南へ約1000キロのここは世界自然遺産である小笠原諸島です。葛西臨海水族園には、小笠原の海を紹介する展示水槽があり、定期的に調査・収集に訪れています。
今回の小笠原訪問も展示生物の調査・収集が目的ですが、ここでご紹介するのは魚ではなく、トカゲの「グリーンアノール」で、全長20センチほどの北米南東部原産の外来種です。父島・母島では、島内全体に生息域が広がっており、私たちが滞在している父島では、民家の庭先や公園などで日光浴をしている姿をよく目にし、とても身近な存在です。
小笠原諸島の生物は、その多くが小笠原の固有生物です。そこに現れたグリーンアノールは、主に昆虫を餌とするため、島固有の昆虫も食べられ減ってしまいます。このままだと、やがて喰い尽され、全滅してしまうでしょう。小笠原の昆虫にとってグリーンアノールは脅威的な存在なのです。もともと孤立した海洋島で生物の多様性が低い小笠原の生態系にも、大きな影響を与えてしまう存在です。
だったら駆除してしまおう……しかし残念ながら、効率的な駆除方法はまだ確立されておらず、父島全体に広がったグリーンアノールの完全駆除は、大変困難な状況です。現在は環境省や地元ボランティアなどが協力し、港湾を中心に粘着トラップ(ネバネバしたゴキブリトラップみたいなもの)を仕掛け、島外への分布拡大防止を試みています。
実際、グリーンアノールが進出していない兄島では、父島に比べ、セミの鳴き声が多く聞こえました。たった1種のトカゲの脅威はまだまだ進行中です。また、外来のカエル「オオヒキガエル」や「ウズムシ」などもグリーンアノールと同じように在来の生物に大きな影響を与えています。
小笠原は稀少な動植物が息づく場所であると同時に、人間によって持ち込まれた外来種の影響を実感できる場所でもありました。
写真上:グリーンアノール
写真中:グリーンアノールのトラップ
写真下:捕まったアノール
〔葛西臨海水族園飼育展示係 齋藤祐輔〕
(2012年11月02日)
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