2012年9月2日、飼育作業の合間に多摩動物公園昆虫生態園作業室の脇にある草むらを何気なく眺めていると、視界を横切って飛んできた虫が目の前の草に止まりました。体長1.5センチほどの小さなガのなかま「コスカシバ」です。あわてて捕虫網を取りに行き、採集することができました。
コスカシバが属するスカシバガ科のガは、日本では40種ほどが知られています。よく似た名前のオオスカシバは、スズメガ科のなかまです。
すべての種類が昼飛性で、細長く透明な翅をもち、黒い腹部に赤、白、黄色の縞模様があるなど、ハチ類に行動や姿が似ています。スカシバガ類の多くは、決して珍しい昆虫ではありませんが、羽化時期が長期に渡るため大発生せず、ほかのガのように夜の明かりに飛んでくることがない上、なにより飛んでいる姿がハチそっくりなので、意識をしないとなかなか見つけられません。
採ったとたんに捕虫網内で暴れまわると聞いていたのですが、意外におとなしく、移し替えたプラスチック管ビン内でも動かずに止まっているので、それならば生態(風?)写真を撮ってみようと、屋外に生えている草の上に止まらせてみることにしました。
プラスチック管ビンを逆さまにして葉にあてがい、管ビンの尻をトンとたたき葉の上にコスカシバを止まらせます。しばらくしてもコスカシバは微動だにしないので、そーっと管ビンをもち上げてみました。次の瞬間、コスカシバはあっという間に上昇し、コナラの梢の向こうへと飛んでいきました。一瞬何が起こったのか理解できないほどでしたが、それはまさにハチのように見事な飛翔でした。コスカシバの飛翔能力をすっかり忘れて、完全に油断していました。
あとからじわじわと悔しさがこみあげ、がっかりして下を向いてばかりいたせいか、後日クロヤマアリが2頭がかりでコスカシバの死骸を運んでるのに出会うことができました。迷うことなく、ひったくるようにアリから奪って標本にしました。少しばかり傷んでいる標本ですが、「ハチらしさ」はみなさんに伝わっているでしょうか。
写真上:コスカシバの標本(腹面)
写真中:口はぜんまいのように巻いたストロー状
写真下:翅の黒色部は鱗粉に覆われている
〔多摩動物公園昆虫園飼育展示係 田畑邦衛〕
(2012年10月12日)
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