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甘エビ(ホッコクアカエビ)はなぜ甘い?
 └─葛西  2012/07/06

 葛西臨海水族園深海の生物コーナーの「深海II」水槽にホッコクアカエビを展示しました。ホッコクアカエビは、鮨ネタや刺身で「甘エビ」として流通している、みなさんよくご存じのエビのことです。

 じつは以前からこのポピュラーなエビを展示したかったのですが、飼育が難しいのと、何しろ日本海側か太平洋側では宮城県沖あたりまで北上しないと入手できないエビだったのですが、今回、石川県ののとじま水族館にご協力いただき、展示することができました。

 日本近海では島根県以北の日本海、朝鮮半島東岸、宮城県以北の太平洋、オホーツク海、そしてベーリング海からカナダ西岸までの広い範囲に見られ、水深でいうと日本近海では水深200から600メートルの深海の砂泥底に生息しています。

 タラバエビ科に属し、以前展示していたモロトゲアカエビもこのなかまです。このなかまは、まずオスになって成熟し、その後すべてメスに性転換します。性転換は5歳ころに起こり、寿命は10年以上とされています。外形の特徴は、全身がとてもきれいな赤色で、少し透けて内臓が見えることです。

 さて「甘エビ」という名前のとおり、生食するとたしかにほんのりと甘く、とてもおいしく感じます。この甘みを感じさせる成分はグリシン、アラニンなどのアミノ酸で、生きているときはほとんどない成分とされています。多くの動物は死ぬと今まで働かなかった自己分解酵素が活動を始めて、体を構成する主な成分のたんぱく質をアミノ酸に分解します。甘エビの場合、生きているか新鮮すぎるとこの酵素がまだ働かず、甘くない「甘エビ」になってしまいます。

 ホッコクアカエビは、飼育してみると以前飼っていたモロトゲアカエビとかなり性質が違うことがわかりました。モロトゲアカエビなどよりもおとなしいのです。動きも緩やかで、何かに驚いて後ろ向きに飛ぶときもせいぜい30センチほどで、モロトゲアカエビの1メートル近いジャンプ力にははるかにおよびません。

 餌のとり方も、オキアミなどのミンチを少しずつ食べる程度で、モロトゲアカエビやイバラモエビが巨大な餌を抱えて物陰に隠れバリバリとかじるのとは好対照です。

 水族園にお越しの折には、この優雅でおいしいホッコクアカエビ「甘エビ」の生きた姿をじっくりと見てください。

〔葛西臨海水族園飼育展示係 江川紳一郎〕

(2012年07月06日)



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