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開園70周年に咲く花 
 └─井の頭 2012/05/25

 「いずれアヤメかカキツバタ」という諺がありますが、「甲乙をつけがたいもの」転じて「非常に似ているもの」のたとえに使われます。アヤメ科アヤメ属の植物は5〜7月に開花しますが、アヤメ、ノハナショウブ、カキツバタの花はたがいに似ていて、区別が付きにくいものです。

 井の頭自然文化園水生物園(分園)内オシドリ舎前の植え込みで、2012年5月中旬にアヤメが開花しました。アヤメというと水辺の植物と思われがちですが、じつは山野の比較的乾いたところに自生しています。花色は紫で、外花被の根元にある紫と黄色の網目状模様が稜(あや)になった目のように見えることから文目(あやめ)と呼ばれるようになったようです。なお、アヤメは漢字で「菖蒲」とも書き、これはショウブとも読みます。草丈はせいぜい50センチ程度です。残念ながら5月下旬には花期は終わってしまいそうです。

 一方、5月19日から延長された水辺の小道前にある島(旧オシドリサンクチュアリー)では、この冬に植えたノハナショウブが5月20日に初めて開花しました。開園70周年時に満開になるように準備しましたが、冬の寒さのせいか開花が遅れてしまい、今から6月上旬くらいまでが見ごろになると思われます。ノハナショウブは、園芸品種として昔から数多くの品種が作出されているハナショウブの原種で、花はアヤメよりもやや赤みがかった紫色をしています。湿った草原や湿地に自生し、草丈は1メートルにもなります。

 また、水生物館横を流れる水路には、カキツバタの群落をつくりました。昨年までこの水路は外来種のキショウブが多く見られましたが、この冬にキショウブをできるだけ駆除し、在来のカキツバタを導入しました。カキツバタはアヤメ、ノハナショウブに比べてより葉が広いのが特徴で、ノハナショウブよりもやや明るい青がかった色の花をつけます。また、前の2種より水辺に適応していて湿地に群落をつくり、都立公園内でも野生の群落が見られるところがあります。愛知県などでは群生地が天然記念物に指定されています。ノハナショウブ同様に数々の園芸品種が作出されています。なお、この水路に植えたものは、まだ蕾が見られないことから、今年咲いても6月中旬以降になるものと思われます。

 湿性地で見られるノハナショウブ、カキツバタ群落は花が美しいだけでなく、そこにすむ生き物の隠れ家になるなど水辺生態系の重要な位置を占めています。

 前述のキショウブは、西アジアからヨーロッパなど日本より乾燥した地域に自生する種で、明治時代に渡来して、水辺から陸上まで繁殖できる強健さのため各地で半野生化しています。何と外来種でありながら日本庭園の池で見られることもあります。しかし、湿潤な日本では、シックな紫色の花の方が似合うと感じるのは筆者だけでしょうか。何の科学的根拠もありませんが……。

写真上:アヤメ
写真下:ノハナショウブ

〔井の頭自然文化園水生物館飼育展示係 池田正人〕

(2012年05月25日)



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