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ミヤコタナゴが産卵しています
 └─井の頭 2012/05/04

 みなさんは魚が卵を産むところを見たことがありますか? 家で生きものを飼っている方は見たことがあるかもしれません。また、テレビの映像で卵を水中に放出するようすや、一つずつ川底のくぼみや岩肌に産みつける行動を見たことがあるかもしれません。 

 今回紹介するミヤコタナゴは、生きた貝の中に卵を産む、ちょっと変わった行動をする魚です。そして井の頭自然文化園水生物館では、この時期に産卵を観察することができます。

 ミヤコタナゴをはじめタナゴのなかまは、貝の中に卵を産みつける習性が知られています。貝のからだには、外の水を体内にとり入れるための管があり、タナゴはこの管を通して貝の中のエラ部分に卵を産みつけます。貝にとってみればいささか迷惑な話ですが、卵は孵化するまでの間、固い貝殻に守られ、つねに新鮮な水を得て育つことができます。
 
 ミヤコタナゴの水槽では、カワシンジュガイという貝をいっしょに展示しています。繁殖期になると、貝のまわりでオスがメスを誘うように、からだをふるわせて泳ぎます。成熟したオスは鼻先が白っぽくなり、ひれがオレンジ色に縁取られるので、メスと区別することができます。メスは産卵の準備ができると、お尻のあたりから細長い管をのばします。この管は一見糞のようにも見えますが、卵を産むための重要な器官(産卵管)です。メスが貝に卵を産むと、すかさずオスが精子をかけます。この瞬間、周りにいたたくさんのオスも精子をかけに集まってくるので、一目で「産卵」がわかります。

 卵を産みつけられた貝は、別の貝と交換して、裏側の予備水槽で飼育します。約1か月ほどすると、小さな稚魚が泳ぎ出てきます。
 
 ミヤコタナゴは、国の天然記念物にも指定されている絶滅が危ぶまれる稀少な魚です。かつては東京都をはじめとした関東の平野部に広く分布していましたが、現在では千葉県と埼玉県、栃木県のごく限られた場所に生息が確認されるだけとなりました。

 水生物館では、毎年ミヤコタナゴを繁殖させ、展示とともにその保全に努めています。ミヤコタナゴの産卵は始まったばかりで、これからさらに盛んになります。ぜひ見にいらっしゃってください。

写真:ひれがオレンジ色のオス(右)と産卵管も見えるメス(左)のミヤコタナゴ

〔井の頭自然文化園水生物館飼育展示係 中沢純一〕

(2012年05月04日)



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