みなさんは、ゴリラというと地面に座っている姿を一番にイメージされるのではないでしょうか。上野動物園にくらすゴリラたちはニシローランドゴリラという種類で、マウンテンゴリラなどいくつかの亜種がいるゴリラの中でも、よく木に登り採食するアクティブなゴリラです。それにも関わらずゴリラたちの放飼場は、高いところに登れるような施設が少ないのです。
野生のようなくらしをさせるのは無理なのかなと思いながら放飼場を見ていると、日除け替わりに植えた数本の木が目に止まりました。「この木に登らせればいいんだ!」
擬木から一番近く、脱出の可能性も低いヤマモモの木にツタをイメージしてロープを張りました。ロープが真っ白だったため、樹皮の色になじむようコーヒーで茶色に染めてみました。まずは子どものコモモ(メス、2歳)だけが木に登れるように、ロープは直径2センチほどのものにしたのですが、私は動物園のゴリラをなめていたようです。
はしごをかけ、木の上にニンジンやトマトを刺してみて、コモモばかりを見ていたところ、樹上の餌に気づきロープをつかんだのはおとなのハオコ(オス、18歳)でした。そりゃ無理だろと思った瞬間、ハオコはいとも簡単にロープの上でバランスを取りながら立ち上がったのです。そして木に足をかけ登っていくと、木になった(?)餌をもぎ取って口にくわえ、木の又で食べ始めました。その後、綱渡りを楽しむように簡単に擬木まで戻ってきました。驚異のバランス感覚は圧巻でした!
野生と比べるとどうしても狭く単調になってしまう動物園の生活ですが、彼らが少しでも毎日楽しくくらせるような工夫を考えています。みなさんが来園するたびに彼らの違った表情をお見せできればと思います。
写真:ロープを渡るハオコ
〔上野動物園東園飼育展示係 木岡真一〕
(2012年03月02日)
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