深海のコーナーの薄暗い水槽からギロリと光る大きな目と鋭い歯──いまにも襲いかかりそうな形相でこちらをうかがっているのは「クロシビカマス」です。その強面(こわもて)な外見とはうらはらに、取りあつかいのむずかしい魚なのです。
クロシビカマスは、ふだん水深100~400メートルの深い海にすんでいる深海魚のなかまです。しかし、深海から魚をいきなり引きあげてしまうと水圧が急激に変化し、風船のようにふくらんで死んでしまいます。さいわいなことにクロシビカマスは、夜になると餌を求めて水深数十メートルまで浮上してくるので、そこを狙います。
クロシビカマスは肌がとても弱いので気をつけなければなりません。釣りあげる際、釣り糸にあたるだけで弱ってしまうこともよくあります。もちろん釣りあげた魚を手でつかむなんてもってのほか。魚にさわったり、どこかにぶつけてしまったりしないよう、細心の注意をはらいながら針からはずし、船の活け簀に入れます。
クロシビカマスは、釣り船店から釣れているという情報をもらったうえで採集に出かけるのですが、夜中まで粘って数匹しか釣れないこともよくあります。そのうえ、状態のよいものを選んで水族園に運んでも、翌朝には死んでいたということもあります。とても採集の成功率が悪い生物の一つなのです。
光の加減によって銀色がかった赤、青、緑などに輝きながら、ゆっくりと水槽の中を泳ぐクロシビカマス。まだまだ暑い日が続いていますが、涼みがてら、ぜひクロシビカマスを見に水族園へお越しください。
〔葛西臨海水族園調査係 雨宮健太郎〕
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