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揺れ動く「白い絨毯」、カニ水槽から連想してみては?
 └─葛西  2011/08/19

 ここは東京湾にそそぐ川の河口。目の前に広がる背丈以上もある青々としたアシをかき分け進むと、やがてアシの切れ間からハッとする光景が広がります。

 あたり一面にうっすら「白い絨毯(じゅうたん)」。しかも小刻みに揺れ動いています。そして、アシ原の外へ一歩足を踏み出すと、それは瞬時に消え、あたりは茶色の泥干潟に変わります。

 その場でじっと待っていると、泥干潟にたくさんある小さな穴からチゴガニが次々に現れ、おのおの白いハサミをリズミカルに振り上げはじめます。じつは、この「白い絨毯」の正体は、小さなチゴガニたちがこぞって白いハサミを振り上げている光景です。瞬時に消えたのは警戒心の強いチゴガニが人の気配を察知して一斉に巣穴に隠れたためです。

 チゴガニは小型(甲幅1センチメートル弱)のスナガニ科の一種で、泥干潟に巣穴を掘り、干潮時に巣穴から出て活動します。春から夏にかけてが繁殖期で、オスが白いハサミを盛んに振り上げメスを誘います。とくに、生息密度の高い泥干潟では1平方メートル当り雌雄合わせて800匹にもなることがあるそうで、茶色い泥干潟はあたかも「白い絨毯」のようになるのです。これは、あちこちでバラバラに揺れ動くこともあれば、一面ほぼ同じリズムで揺れ動くこともあります。一説によるとチゴガニ同士が周囲のリズムに合わせてハサミを振り上げているともいわれています。

 とても興味深い行動をするチゴガニですが、私たちがくらすすぐそばの東京湾奥部にも生息し、身近な生き物の一つといえるでしょう。葛西臨海水族園のカニ水槽では、多いときには10匹くらいこぞってハサミを振り上げるようすがごらんになれます。この水槽を見て、実際の泥干潟の「白い絨毯」を思い浮かべてみてはいかがでしょうか?

◎チゴガニの動画
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〔葛西臨海水族園飼育展示係 田辺信吾〕

(2011年08月19日)



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