多摩動物公園で先日チンパンジーを観察していると、「コン、ココン、コン」とナッツ割りのハンマーの音が聞こえてきました。でも、いつもよりなんだかテンポの悪いその音、いったいだれが鳴らしている音なんだ?と見てみると、そこには真剣な表情で鉄のハンマーを握りしめているジン(オス、2歳10か月)の姿がありました。
以前、ジンが人工アリ塚でジュースなめができるようになったことをお知らせしましたが、それに続き今度はナッツ割りに挑戦中のようです。
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ジンのジュースなめのニュース
「ナッツ割り」とは、道具を使って硬い木の実などを叩き割って食べる行動で、アフリカのボッソウにくらす野生のチンパンジーは、一組の石をハンマーと台にしてアブラヤシの種を割って食べます。
多摩動物公園では石の台座とステンレス製のハンマーを使って、硬い殻付きのマカダミアナッツを割って食べています。この道具は力の加減が難しく、うまくハンマーがあたらないと、まるいマカダミアナッツの実は転がっていってしまい、力を入れすぎると中の実まで粉々になってしまいます。
ジンより年上のミル(8歳)やボンボン(5歳)、マックス(3歳)は、まだこの道具を使うことができません。
ジンがナッツ割りに興味を示したのは3か月前くらいのことです。ある日ジンにマカダミアナッツを渡すと、それをくわえてナッツ割りの台の上に置きました。偶然かなと思いもう一つ渡すと、今度も台の上に置きました。
そのときはハンマーを手にすることはありませんでしたが、「この実を、ここに置くんだ」ということはわかっているようで、しばらく後にはハンマーで台を叩いてみるようにもなりました。
ここで面白いことに気づいたのですが、多摩のチンパンジーのほとんどは地面に座るか、あるいはコドモは地面に立ってナッツ割りをするのですが、ジンはナッツ割りの台の上に座ってハンマーを叩いていました。まだ小さくて背が届かないせいかもしれませんが、私はその姿に見覚えがありました。ジンの母親替わりをしてくれているサザエ(推定29歳)です。
サザエはほかのチンパンジーとは違い、台に乗ってナッツ割りをすることが多いのです。ジンはそれを真似していたのかもしれません。やはりお母さん替わりであるサザエの姿を、一番見ていたんだなあと思う瞬間でした。
まだハンマーで叩く姿はぎこちなく、その力も弱いため、ナッツ割りができるようになるには時間がかかるかもしれませんが、成功の日は確実に近づいているようです。ナッツ割りだけでなく、ジンはいろいろなことに興味を示し、日々たくましく成長しています。そんなジンをあたたかく見守ってください。
写真上:台にナッツを置くジン
写真中:ナッツ割りに挑戦するジン
写真下:サザエのナッツ割り
〔多摩動物公園北園飼育展示係 東川上純〕
(2011年05月27日)