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続・新たな視点で見てみると(26)
 暗闇に青く光り、集まって赤く見える「ヤコウチュウ」
 └─葛西  2011/05/27

 葛西臨海水族園では「深海の生物」コーナーの展示を充実させるため、2011年5月7日、静岡県沼津市戸田港の深海底引き網漁船に乗せていただき、ミドリフサアンコウなどの深海生物の採集をおこないました。この採集のようすは別の機会に紹介させていただくとして、今回は、漁場に向かう途中と採集を終えて帰港後に見られた、幻想的な光景をご紹介します。

 船が出港したのは、辺りがまだ真っ暗な午前3時55分。小雨が降っていて、これからおこなう採集が順調に進むか不安にさせるような、少し重たい雰囲気が漂っていました。しかし、港を出てから5分ほどたったとき、その重たい空気を一変させるような出来事が始まりました。

 船の舳先が海面を割るたびに、波が青く光るのです。周りには何も見えない真っ暗な海上で、自分の乗った船の周りだけ青く輝いている、とても幻想的な光景でした。

 そして昼過ぎに採集が無事終了し、多くの深海生物をクーラーボックスに入れて港に帰ってみると、港内の海の色がまた不思議なことになっていました。船を係留している岸壁近くの海面がペンキを流したかのように赤くなっていたのです。たとえが悪いですが、ちょうどトマトジュースかキャロットジュースのような色でした。
 もちろんペンキでもジュースでもなく、これは「赤潮」と呼ばれる現象です。小さなプランクトンが大量に集まり、海面が赤く見えているのです。

 この「青く光る波」と「赤い海面」は、どちらも同じ生物「ヤコウチュウ」の仕業です。ヤコウチュウは単細胞のプランクトンで、大きさは0.15~2ミリメートルほどあり、肉眼でも見ることができます。顕微鏡で拡大してみると、ふくらんだ風船のように大部分が透きとおっていて、そこから尻尾のように1本の触手が伸びています。この触手をユラユラと動かしているようすはちょっとユーモラスであり、しばらく見ていると何だか可愛く思えてきたので、現在、水族園の裏側スペースで飼育中です。

ヤコウチュウ動画


写真上:夜明け前、暗闇のなか出港
写真中上:船が立てる波が青く光る
写真中下:港に帰ると海面が真っ赤
写真下:ヤコウチュウ(一部赤っぽい色をしている)

〔葛西臨海水族園飼育展示係 三森亮介〕

(2011年05月27日)



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