ニュース
トビハゼの仔魚と泥干潟──葛西 2004/09/24

 葛西臨海水族園「東京の海」エリアの「泥干潟」水槽では、開園以来、トビハゼを展示しています。これまで繁殖行動や少数の仔魚(しぎょ)は確認してきましたが、2004年7月26日、過去には例がないほど、たくさんの仔魚(約100尾)が採れました。早速、別の仔魚育成用水槽に移して飼育中です。今後の成長がとても楽しみです。

 右の写真を見てください。親と姿がずいぶんちがうと思いませんか? 仔魚の体長はわずか 2.8ミリほどで、透明な体をしています。頭部には横に大きな目と前方に突き出た口、後半部分には体を縁取るように透明なうろこがあります。

 じつはトビハゼは、孵化後しばらくのあいだ、プランクトンなどの小さい餌生物を食べながら、干潟周辺の表・中層付近を漂いながら生活しています。この姿はそんな浮遊生活にふさわしいものなのです。その後徐々に目が上方へ、口が下方へ移行したり、皮膚呼吸ができるようになったり、陸上生活に適した体の構造に変化していきます。

 この浮遊時期には、潮の流れに漂いながら、生まれた場所を離れて行くものもいます。この間に、外敵におそわれたり、餓死するものも少なくないでしょうが、やっとの思いでたどり着いた場所が、彼らにとって「生息可能な(生きて行くための必要条件を満たす)泥干潟」であれば、そこで新しい生活を始めます。こうしてトビハゼは分布域を徐々に広げて行くのです。

 ところで、彼らの「生息可能な泥干潟」といわれても、よくわからないと思いますので、少し説明しましょう。河口域や内湾にできる干潟の中でも、とくに彼らが好む場所は、ヨシ原や護岸などがあり、直接波の影響を受けにくい干潟です。このような場所は、粒子がとてもこまかく、水分を多く含んだ泥質で構成されていることが多いのです。

 ちょっと分かりにくい表現でしたが、簡単にいうと、私たちがそこを歩くと、足首くらいの高さまでズブズブとすぐに埋まってしまうような柔らかい泥の干潟のことです。さらに、ここには彼らの好きな甲殻類やゴカイのなかまなどの餌生物が豊富であることなどはいうまでもありません。

 ところが、近年埋め立てなどにより、とくに東京湾内では、このような泥干潟は少なくなり、トビハゼの生息域はせばまるとともに、新たな分布域を広げにくいようです。

 しかし幸いにも、湾奥部に位置する水族園周辺で、一度失われた干潟のかわりとして造られた「東なぎさ」にトビハゼがやってきました。ここは、東京湾の中でも彼らが生活できる、とても数少ない泥干潟の一つなのです。

〔東京動物園協会調査係 田辺信吾〕

(2004年9月24日)



ページトップへ